離婚を切り出したら夫に財産を隠されそう――預金や不動産を守るためにできること

離婚を切り出したら夫に財産を隠されそう――預金や不動産を守るためにできること
「離婚の話をしたら、夫が預金を別の口座に移してしまうのではないか」
「夫名義の不動産を、勝手に売却されるかもしれない」
「財産を隠された後では、財産分与を請求しても回収できないのではないか」
夫が家計や資産を管理している場合、このような不安を抱く方は少なくありません。
夫名義の財産であっても、婚姻中に夫婦の協力によって形成・維持されたものであれば、原則として財産分与の対象となり得ます。しかし、財産分与について合意や裁判所の判断が出る前に財産を処分されると、その後の回収が難しくなることがあります。
そこで、財産が処分される具体的な危険がある場合には、預金や不動産などを暫定的に確保する「保全手続」を検討します。代表的なものが、金銭の支払を確保するための「仮差押え」と、特定の不動産などの処分を防ぐ「処分禁止の仮処分」です。
ただし、単に「隠されるかもしれない」という不安だけで認められるものではありません。離婚を切り出す前後の段階から、財産と処分の危険を示す資料を集めておくことが重要です。
1 夫名義の財産でも財産分与の対象になる
夫名義であることだけでは対象外にならない
財産分与では、名義だけでなく、婚姻中に夫婦が協力して形成・維持した財産であるかどうかが問題になります。
例えば、夫の収入で購入した自宅が夫の単独名義になっていても、妻が家事や育児を担い、夫の就労や家庭生活を支えていたのであれば、夫婦の協力によって形成された財産として、財産分与の対象になり得ます。
主な対象財産としては、次のようなものがあります。
・預貯金、定期預金
・土地、建物などの不動産
・株式、投資信託、国債などの有価証券
・生命保険、学資保険などの解約返戻金
・自動車
・退職金または退職金に関する権利
・夫婦が経営する会社の株式、出資持分
・暗号資産その他の換金可能な財産
一方、住宅ローンなどの債務についても、財産の価値を判断する際に考慮する必要があります。
婚姻前の財産や相続財産は原則として対象外
一方が婚姻前から保有していた財産や、婚姻中に相続・贈与によって取得した財産は、原則として「特有財産」とされ、財産分与の対象にはなりません。
ただし、婚姻前の預金と婚姻後の収入が同じ口座で混在している場合や、相続した不動産について夫婦の収入から多額の修繕費やローンを支払っている場合などは、対象財産の範囲や評価をめぐって争いになることがあります。
「夫名義だから対象外」「婚姻後に取得したからすべて2分の1」と単純に判断できるわけではありません。
財産を確認する基準時は原則として別居時
財産分与では、夫婦の経済的な協力関係が終了した時点を基準として、対象財産を確定するのが一般的です。多くの事案では、別居時が基準となります。
そのため、別居を予定している場合には、別居日の前後における預金残高、証券口座の保有銘柄、保険の解約返戻金、不動産や住宅ローンの状況などを記録しておくことが重要です。
もっとも、家庭内別居が長期間続いていた場合や、別居後も家計が一体となっていた場合などは、別の時点が基準になる可能性があります。
2 離婚を切り出す前に確保したい財産資料
まずは財産目録を作成する
財産を隠されることが心配な場合、最初に行うべきことは、夫婦の財産をできる限り具体的に一覧化することです。
財産目録には、次のような情報を記載します。
・財産の種類
・名義人
・金融機関、支店、口座の種類
・不動産の所在地
・現在のおおよその価額や残高
・取得した時期と取得資金
・住宅ローンその他の負債
・資料を確認した日付
すべての財産を完全に把握できなくても構いません。「○○銀行を給与振込口座として利用している」「○○証券から郵便物が届いていた」など、後の調査につながる手掛かりを残しておくことが大切です。
通帳の表紙だけでなく取引履歴も確認する
預貯金については、銀行名や支店名だけでなく、別居時の残高と、その前後の入出金を確認できる資料が重要です。
具体的には、次の資料が考えられます。
・預金通帳の表紙、支店名、口座番号が分かるページ
・別居前後の取引履歴
・残高証明書
・定期預金の証書や満期案内
・インターネットバンキングの口座情報
・証券会社や保険会社から届いた取引報告書
・確定申告書、源泉徴収票、給与明細
・不動産の登記事項証明書、固定資産税通知書
・住宅ローンの返済予定表、残高証明書
別居直前に多額の出金がある場合には、日付、金額、振込先、出金理由として夫が説明した内容なども記録しておきます。
ただし、夫のパスワードを無断で使用してオンライン口座へアクセスするなど、違法となり得る方法で資料を取得してはいけません。適法に確認できる資料を保存することが基本です。
3 夫の財産の所在が分からない場合
裁判所の調査嘱託などを利用できることがある
離婚調停や離婚訴訟などの手続では、裁判所を通じて金融機関や勤務先などに報告を求める「調査嘱託」が利用できる場合があります。また、弁護士会照会によって、弁護士会から金融機関などに必要事項の照会を行うことも考えられます。
もっとも、これらの制度を利用して、全国すべての金融機関を網羅的に調査できるわけではありません。
通常は、銀行名、支店名、過去の振込記録、郵便物、給与振込先など、口座の存在をうかがわせる具体的な手掛かりが必要です。必要性や調査対象が不明確な申立ては、採用されないことがあります。
そのため、離婚を切り出す前に、金融機関名や証券会社名だけでも確認しておくことには大きな意味があります。
財産に関する情報開示命令
2026年4月1日から施行された家事事件手続法152条の2により、財産分与に関する審判事件では、家庭裁判所が必要と認める場合、当事者に対して財産状況に関する情報を開示するよう命じることができるようになりました。
正当な理由なく情報を開示しなかった場合や、虚偽の情報を開示した場合には、10万円以下の過料に処せられる可能性があります。
もっとも、この制度によって、裁判所が自動的にすべての隠し財産を発見してくれるわけではありません。どのような財産が存在する可能性があるのかを示す手掛かりは、引き続き重要です。
4 預金や不動産を処分されそうな場合の保全手続
金銭の支払を確保する「仮差押え」
財産分与として金銭の支払を受けることを希望する場合には、夫名義の預金や不動産などに対する仮差押えを検討します。
仮差押えとは、将来、財産分与を命じる判決や審判を得ても、相手方の財産がなくなっていて強制執行ができないという事態を防ぐため、相手方の財産を暫定的に確保する手続です。
例えば、夫が預金を第三者へ送金しようとしている、不動産を急いで売却しようとしている、多額の財産を換金して所在を分からなくしようとしているといった事情がある場合に検討します。
ただし、仮差押えを申し立てるには、財産分与請求権が認められる見込みだけでなく、財産が処分されて将来の回収が困難になる具体的な危険を資料によって示す必要があります。また、裁判所から一定額の担保金を納めるよう求められるのが通常です。
特定の不動産を守る「処分禁止の仮処分」
妻が財産分与として金銭だけでなく、自宅など特定の不動産そのものを取得したい場合には、処分禁止の仮処分を検討することがあります。
処分禁止の仮処分が認められ、不動産に処分禁止の登記がされると、その後に夫から不動産を取得した第三者に対しても、将来の財産分与による権利を主張できる状態を確保できます。その結果、夫による売却や名義移転を事実上困難にすることができます。
もっとも、単に自宅に住み続けたいという希望があるだけでは足りません。その不動産を財産分与として現物取得できる見込みや、処分を防ぐ必要性を示さなければなりません。
離婚前と離婚後では手続が異なる
離婚前に財産分与を求める場合、通常は離婚訴訟の中で財産分与を附帯処分として申し立て、その離婚訴訟を本案として仮差押えや仮処分を申し立てることを検討します。
これに対し、離婚成立後は、財産分与調停または財産分与審判を本案として、家事事件手続法上の審判前の保全処分を申し立てることになります。
離婚前か離婚後か、離婚調停中か離婚訴訟中かによって、申立先や利用できる手続が異なります。財産の処分が迫っている場合には、手続選択を誤ると間に合わない可能性があるため、早めの検討が必要です。
5 保全手続が認められるために必要なこと
「隠されそう」という不安だけでは足りない
仮差押えや処分禁止の仮処分を申し立てるには、主に次の2点を疎明する必要があります。
1つ目は、財産分与請求権が認められる見込みです。婚姻関係が破綻して離婚が認められる可能性や、夫婦共有財産の内容、想定される財産分与額などを示します。
2つ目は、保全の必要性です。夫が財産を処分し、将来の財産分与や強制執行が困難になる具体的な危険を示す必要があります。
例えば、次のような事情が資料になり得ます。
・夫が「離婚するなら財産を全部処分する」と発言した
・別居直前に預金口座から多額の出金があった
・不動産会社に自宅の売却を依頼している
・生命保険や証券口座を相次いで解約している
・親族や関係会社へ不自然な送金をしている
・財産の存在について明らかに不合理な説明をしている
発言については、日時、場所、具体的な内容を記録し、メールやメッセージがある場合には保存しておきます。
対象財産は慎重に選ぶ
どの財産を仮差押えするかについては、相手方への影響も考慮する必要があります。
生活費や事業資金として使用されている預金口座を仮差押えすると、夫の生活や事業に大きな影響を与えることがあります。退職金請求権を対象とした場合には、勤務先に夫婦間の紛争が知られる可能性もあります。
一方、不動産の仮差押えは、直ちに日常生活の資金を失わせるものではないため、預金の仮差押えよりも相手方への影響が小さいと評価される場合があります。
財産分与として見込まれる金額、処分の危険性、相手方への影響などを比較し、必要な範囲に限定して申し立てることが重要です。
6 保全手続を行う前に考えるべきリスク
仮差押えや仮処分は、財産を確保するための有効な手段ですが、申し立てれば必ず認められるわけではありません。
また、夫の預金や不動産に保全処分を行うと、夫が態度を硬化させ、その後の離婚条件について話合いが難しくなることもあります。担保金の準備が必要になるほか、保全処分が不適切で相手方に損害を与えた場合には、損害賠償が問題となる可能性もあります。
他方で、財産が処分される具体的な危険が迫っているのに、話合いへの影響を恐れて何もしなければ、将来の回収が困難になるおそれがあります。
「相手を刺激するかどうか」だけで判断するのではなく、処分の危険性、財産の種類、予想される財産分与額、交渉状況などを踏まえ、保全手続を利用する必要性を判断することが大切です。
7 離婚を切り出す前後の準備チェックリスト
夫による財産隠しや処分が心配な場合には、次の事項を確認してください。
・夫婦の財産を一覧化する
・金融機関、支店、証券会社、保険会社を確認する
・別居時の預金残高や取引履歴を保存する
・不動産の所在地と登記名義を確認する
・住宅ローンやその他の負債を確認する
・保険の解約返戻金や株式の保有状況を確認する
・別居日を明確に記録する
・別居前後の多額の出金や送金を記録する
・夫による処分や財産隠しに関する発言を保存する
・自宅など現物で取得したい財産があるかを整理する
別居後に初めて財産調査を始めると、資料にアクセスできなくなっていることがあります。身の安全に問題がない限り、離婚を切り出す前から適法な範囲で資料を確認しておくことが重要です。
まとめ――財産が動く前の早めの相談が重要です
夫が財産を管理している場合でも、夫名義であるという理由だけで財産分与を諦める必要はありません。婚姻中に夫婦の協力によって形成・維持された財産であれば、預貯金、不動産、保険、株式なども財産分与の対象となり得ます。
一方、財産分与の内容が決まる前に財産を隠匿・処分されると、将来の回収が難しくなる可能性があります。そのような場合には、金銭の支払を確保する仮差押えや、特定不動産を守る処分禁止の仮処分を検討します。
ただし、保全処分には、財産分与請求権が認められる見込みと、財産が処分される具体的な危険の疎明が必要です。申立てのタイミングや対象財産の選択によって、その後の交渉にも大きな影響が生じます。
「離婚を切り出すと財産を隠されそう」「既に不自然な出金がある」「自宅を勝手に売却されるかもしれない」という方は、財産が動いてしまう前に弁護士へ相談することをおすすめします。
P&M法律事務所では、財産分与や財産隠し、仮差押え・仮処分を含む離婚問題のご相談をお受けしています。初回相談は無料です。現在把握している財産が一部だけの場合でも、まずはお気軽にP&M法律事務所へご相談ください。
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P&M法律事務所
代表弁護士 林本 悠希
大阪大学高等司法研究科卒業後、事務所経験を経て独立し、P&M法律事務所を立ち上げる。メディア出演経験あり。
「ご依頼者様の利益を常に考え、最善の解決をご提案します。」

