夫が財産を隠しているかもしれない―離婚前に妻が確認しておきたい10の資料

夫が財産を隠しているかもしれない―離婚前に妻が確認しておきたい10の資料
「夫がどれくらい財産を持っているのか分からない」「離婚の話をした途端、預金を移されそうで不安」「会社経営者なので、個人の財産と会社の財産がよく分からない」。
離婚を考え始めた方から、このようなご相談を受けることは少なくありません。
財産分与では、単に「現在分かっている財産を半分にする」わけではありません。まず、夫婦が婚姻中に協力して取得・維持した財産を把握し、その所在や価額を確認することが重要です。
夫名義の預金や不動産であっても、婚姻中の収入などを原資として夫婦の協力によって形成された財産であれば、財産分与の対象となり得ます。反対に、婚姻前から持っていた財産や、相続・贈与によって取得した財産などは、原則として「特有財産」として財産分与の対象外となります。
そのため、離婚を切り出す前の段階から、どのような財産があり、それがどのように形成されたのかを確認できる資料を確保しておくことが非常に重要です。
この記事では、夫が財産を隠している可能性がある場合を念頭に、離婚前に確認しておきたい10種類の資料を解説します。
1 まず知っておきたい「財産分与の基準時」
資料を集める前に理解しておきたいのが、財産分与の「基準時」です。
財産分与では、夫婦が協力して形成した財産を清算するため、いつの時点までの財産を対象とするのかを決める必要があります。
別居している場合は「別居時」が基本
実務上、夫婦が別居した場合には、原則として別居時を基準として財産分与の対象財産を確定することが一般的です。
別居によって夫婦の経済的な協力関係が終了し、その後はそれぞれが独立して財産を形成していると考えられるためです。
たとえば、別居時に夫名義の預金が2,000万円あったのであれば、その後に残高が減っているからといって、当然に現在の残高だけを見ればよいとは限りません。
反対に、別居後に夫が働いて新たに貯めた預金については、原則として財産分与の対象から外れる方向になります。
そのため、別居前後の財産状況が分かる資料を残しておくことが重要です。
2 確認資料① 預貯金の通帳・取引履歴・残高証明書
最初に確認したいのが預貯金です。
具体的には、
- 銀行名・支店名
- 口座番号
- 普通預金・定期預金等の種類
- 通帳
- インターネットバンキングの取引明細
- 残高証明書
などを確認します。
残高だけではなく「お金の動き」を見る
財産分与では別居時の残高が重要ですが、残高だけを見れば十分とは限りません。
たとえば、別居の3か月前まで3,000万円あった預金が、別居時には500万円になっていた場合、2,500万円がどこへ行ったのかが問題になります。
別の銀行口座への送金、証券口座への入金、不動産購入、保険料の一括払いなどであれば、形を変えて財産が残っている可能性があります。
そのため、まとまった入出金がある場合には、残高だけでなく取引履歴を確認することが重要です。
3 確認資料② 金融機関名・支店名・口座情報
「通帳を見せてもらえないから何も分からない」という場合でも、銀行名や支店名が分かる資料には大きな意味があります。
たとえば、
- キャッシュカード
- 銀行からの郵便物
- 振込先として記載された口座
- 住宅ローンの返済口座
- 給与振込口座
- クレジットカードの引落口座
などから、利用している金融機関を把握できる場合があります。
「どこの銀行か」が後の財産調査で重要になる
裁判手続を利用すれば、一定の場合に金融機関への調査嘱託等を検討できます。
しかし、「日本にある夫名義の預金をすべて調べてほしい」というような無限定の探索的調査が当然に認められるわけではありません。
金融機関名や支店名など、財産が存在すると考えられる具体的な手掛かりが重要になります。
したがって、現在の残高まで確認できなくても、「○○銀行○○支店に口座がある」という情報自体を記録しておく価値があります。
4 確認資料③ 証券口座・株式・投資信託などの資料
近年は、預金だけでなく、株式や投資信託などに多額の資産を保有している方も少なくありません。
確認したいのは、
- 証券会社名
- 口座番号
- 保有銘柄
- 保有株式数
- 投資信託の残高
- 売買履歴
- 配当金の入金履歴
などです。
特に、夫が経営者や医師などの高所得者である場合には、上場株式だけでなく、勤務先や経営会社の非上場株式を保有していることもあります。
株式は預金と違って価格が変動するため、対象財産を確定する時点と、実際に評価する時点を区別して検討しなければならないケースもあります。
5 確認資料④ 不動産登記事項証明書
自宅、マンション、土地、収益物件などがある場合には、不動産の資料を確認します。
重要なのが**登記事項証明書(登記簿謄本)**です。
登記事項証明書を確認すれば、所有者だけでなく、抵当権などの権利関係も把握できます。
夫名義だから対象外とは限らない
「自宅は夫名義だから、離婚しても私は何ももらえない」と考えている方がいますが、必ずしもそうではありません。
夫単独名義であっても、婚姻中の収入を原資として購入し、妻が家事・育児等を担うなどして財産形成に協力していたのであれば、財産分与の対象となり得ます。
重要なのは名義だけではなく、いつ、どのような資金で取得されたのかです。
6 確認資料⑤ 固定資産評価証明書・住宅ローン資料
不動産については、所有していることが分かるだけでは十分ではありません。
財産分与額を検討するには、不動産の価値と住宅ローン等の負債を把握する必要があります。
確認しておきたいのは、
- 固定資産評価証明書
- 不動産会社の査定書
- 売買契約書
- 住宅ローン契約書
- 住宅ローン残高証明書
- 返済予定表
などです。
たとえば、自宅の時価が8,000万円でも住宅ローンが5,000万円残っていれば、単純に8,000万円を夫婦で分けるわけではありません。
高額不動産がある離婚では、不動産の評価方法やローン残高の把握だけで分与額が大きく変わることがあります。
7 確認資料⑥ 生命保険・損害保険の資料
見落とされやすいのが生命保険などの保険契約です。
確認したいのは、
- 保険会社名
- 保険証券
- 契約者・被保険者・受取人
- 保険料
- 解約返戻金
- 満期金
- 配当金
などです。
掛け捨ての保険とは異なり、貯蓄性のある生命保険や学資保険、個人年金保険などでは、解約返戻金が相当額に達している場合があります。
財産分与では、保険料をいくら支払ったかではなく、原則として基準時にどの程度の財産的価値が存在していたのかが重要となるため、解約返戻金額が分かる資料を確認しておきましょう。
8 確認資料⑦ 退職金・退職金見込額の資料
夫が会社員や公務員である場合には、退職金も忘れてはいけません。
確認したい資料としては、
- 就業規則・退職金規程
- 退職金見込額証明書
- 勤務年数が分かる資料
- 退職金の計算方法が分かる資料
などがあります。
退職金は将来受け取る財産であるため、すべてのケースで当然に現在の財産として分与されるわけではありません。支給の蓋然性や退職までの期間などを踏まえた検討が必要です。
また、婚姻前から勤務していた場合には、退職金全額ではなく、婚姻期間に対応する部分をどのように評価するかが問題になります。
9 確認資料⑧ 給与・賞与・確定申告などの収入資料
収入資料も重要です。
具体的には、
- 源泉徴収票
- 給与明細
- 賞与明細
- 確定申告書
- 所得証明書・課税証明書
- 会社役員の場合には役員報酬が分かる資料
などを確認します。
収入が高いからといって、直ちに財産分与額が増えるわけではありません。
しかし、「これだけの収入が長期間あったにもかかわらず、開示された預金が極端に少ない」といった場合には、他の預金口座や金融商品などの存在を検討する一つの手掛かりとなります。
特に会社経営者の場合には、個人の給与だけでは財産形成の実態を把握できないケースもあるため、より慎重な分析が必要です。
10 確認資料⑨ 婚姻前の財産・相続・贈与に関する資料
財産分与では、「これは夫婦で築いた財産なのか」「夫または妻の特有財産なのか」が争点になることがあります。
そのため、
- 婚姻時の預金残高
- 相続関係書類
- 遺産分割協議書
- 贈与契約書
- 相続税・贈与税の申告資料
- 相続金・贈与金の入金履歴
なども重要です。
たとえば、婚姻中に夫が親から3,000万円を相続し、それを夫婦の預金と同じ口座で管理していた場合には、現在残っている預金のうち、どの部分が相続財産に由来するのかが問題になることがあります。
「夫名義だから特有財産」「婚姻中に入金されたから共有財産」と単純に決まるわけではなく、財産の原資をたどる作業が必要になる場合があります。
11 確認資料⑩ 資金移動・財産形成の過程が分かる資料
最後に重要なのが、「お金がどこから来て、どこへ行ったのか」を確認できる資料です。
たとえば、
- 不動産の売買契約書
- 振込明細
- 大口送金の記録
- 証券の売買報告書
- 保険料の支払記録
- 財産の売却資料
- 別口座への振替記録
などです。
夫が「その預金はもうない」と説明していても、実際には不動産や株式、保険など別の財産に変わっている可能性があります。
財産を隠している疑いがあるケースほど、個々の財産をバラバラに見るのではなく、資金の流れを時系列で追うことが重要になります。
12 夫が財産を開示しない場合はどうする?
離婚を切り出した後、夫が財産資料を提出してくれないケースもあります。
このような場合には、まず任意の開示を求めた上で、事案に応じて弁護士会照会、家庭裁判所による調査嘱託・送付嘱託などを検討します。
調査嘱託は「何でも調べられる制度」ではない
注意したいのは、裁判所に申し立てれば、日本中の財産を自動的に探し出してもらえるわけではないということです。
金融機関名、支店名、勤務先、保険会社、証券会社など、調査対象をある程度特定し、その財産が存在すると考える具体的な根拠を示すことが重要です。
だからこそ、離婚前に集めた小さな手掛かりが、後の財産調査で大きな意味を持つことがあります。
2026年6月から「情報開示命令」の制度も施行
2026年6月24日に施行された改正法では、財産分与に関する財産情報の開示をより実効的にするための制度が設けられています。
財産分与に関する審判事件では家事事件手続法152条の2、人事訴訟で財産分与の附帯処分が申し立てられている場合には人事訴訟法34条の3により、裁判所が必要と認めるときは、当事者に対して財産状況についての情報開示を命じることができます。
正当な理由なく開示しなかったり、虚偽の情報を開示したりした場合には、10万円以下の過料に処せられる可能性があります。
もっとも、この制度ができたからといって、離婚前の資料収集が不要になったわけではありません。どの財産について確認する必要があるのかを把握するためにも、事前の情報整理は依然として重要です。
13 財産を処分されそうな場合には保全処分も検討する
「夫が不動産を売却しようとしている」「預金を急速に移している」など、将来の財産分与を困難にするような動きがある場合には、事案によっては仮差押えなどの保全処分を検討することがあります。
もっとも、保全処分は単に「財産を隠しそう」という不安だけで当然に認められるものではありません。保全すべき権利や保全の必要性について具体的に検討する必要があり、担保を求められる場合もあります。
また、保全処分を行えば相手方との関係が一気に緊張することもあります。
したがって、財産を動かされる危険性、財産の種類・金額、任意交渉の可能性などを踏まえ、弁護士と相談しながら判断することが重要です。
14 離婚を切り出す「前」の資料収集が重要
財産分与で難しいのは、財産の存在が分かっていても、離婚を切り出した後には資料を確認できなくなることがある点です。
同居中には目にしていた郵便物や通帳、保険会社からの通知、証券会社の書類などが、別居後には確認できなくなることもあります。
もちろん、無断で他人のパスワードを使用してアカウントにアクセスするなど、違法・不適切な方法による情報収集をしてよいわけではありません。
重要なのは、適法に確認できる範囲で、将来必要になる情報を整理しておくことです。
特に資産額が大きい夫婦、会社経営者・医師などとの離婚、不動産や株式を多数保有しているケースでは、財産調査の成否によって財産分与額に数千万円以上の差が生じることもあり得ます。
まとめ|「何を持っているか」だけでなく「どのように形成されたか」を確認する
夫が財産を隠している可能性がある場合、確認すべきなのは預金通帳だけではありません。
預貯金、証券口座、不動産、住宅ローン、保険、退職金、収入資料、相続・贈与資料、さらに資金移動を示す資料を組み合わせ、財産の所在・価額・取得時期・形成過程を把握することが重要です。
そして、資料が十分に開示されない場合には、事案に応じて弁護士会照会、調査嘱託、送付嘱託、情報開示命令などの手続を検討します。
特に高額な財産がある離婚では、「とりあえず離婚の話をしてから財産を調べればよい」と考えることにはリスクがあります。相手方が警戒して財産を移動したり、それまで確認できていた資料を確認できなくなったりする可能性があるためです。
離婚を切り出す前の段階で、どの資料を確保し、何を調査すべきかを整理しておくことが、その後の財産分与を適切に進めるための重要な準備となります。
P&M法律事務所では、離婚・財産分与に関するご相談を取り扱っています。
「夫がどの程度の財産を持っているのか分からない」「財産を隠されている気がする」「離婚を切り出す前に何を確認すればよいか知りたい」といった段階でもご相談いただけます。
特に、不動産・株式・会社経営者の資産などが関係する財産分与では、早い段階で財産関係を整理することが重要です。
離婚や財産分与でお悩みの方は、P&M法律事務所にご相談ください。初回相談は無料です。
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P&M法律事務所
代表弁護士 林本 悠希
大阪大学高等司法研究科卒業後、事務所経験を経て独立し、P&M法律事務所を立ち上げる。メディア出演経験あり。
「ご依頼者様の利益を常に考え、最善の解決をご提案します。」

