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夫が家計を管理していて財産が分からない―離婚前に妻がしておくべき準備

夫が管理する家計や財産を把握するため、離婚前に預金・保険などの資料を確認する女性のイラスト

夫が家計を管理していて財産が分からない―離婚前に妻がしておくべき準備

「夫が家計をすべて管理しており、預貯金がいくらあるのか分からない」

「自宅も預金も夫名義なので、離婚しても何も受け取れないのではないか」

離婚を考えている女性から、このようなご相談を受けることがあります。

しかし、夫名義の財産であるというだけで、財産分与の対象から外れるわけではありません。婚姻中に夫婦の協力によって取得・維持された財産であれば、夫単独名義の預貯金、不動産、保険、有価証券なども財産分与の対象となる可能性があります。

もっとも、夫が財産を開示しなければ、何の手掛かりもない状態から財産を調査することは簡単ではありません。そのため、離婚や別居を切り出す前に、できる範囲で財産に関する情報を集め、別居時点の財産状況を記録しておくことが重要です。

本記事では、夫が家計を管理している場合に、妻が離婚前に準備しておくべきことを分かりやすく解説します。

離婚問題のご相談について|P&M法律事務所

目次

1 最優先すべきなのは身の安全です

暴力・脅迫・監視がある場合は避難を優先する

夫から暴力や脅迫、激しい暴言、行動の監視などを受けており、妻や子どもの生命・身体に危険が及ぶ可能性がある場合は、財産資料の収集よりも安全の確保を優先してください。

生命・身体に危険が迫っているときは、資料や荷物を十分に準備できなくても、速やかに避難する必要があります。警察の生活安全課、配偶者暴力相談支援センター、女性相談支援センターなどへの相談も検討しましょう。

警察にDV被害を相談した場合、相談日時や相談内容、警察が講じた措置などが記録されることがあります。この記録は、後に保護命令などの手続を検討するときに重要な資料となる可能性があります。

別居後に通帳、キャッシュカード、クレジットカードなどを使用すると、利用履歴から避難先や生活圏を推測されるおそれもあります。住所を知られたくない事情がある場合は、使用方法にも注意が必要です。

危険が差し迫っていない場合に確保したいもの

直ちに避難しなければならない状況でなければ、別居前に次のような物を確保しておくことを検討します。

  • 身分証明書、健康保険証、年金関係書類
  • 自分名義の通帳、印鑑、キャッシュカード
  • 常用薬、診察券、お薬手帳
  • 子どもの母子健康手帳、保険証、学校関係書類
  • 戸籍、収入、財産に関する資料
  • 自分や子どもにとって重要な私物

別居後は、自宅に戻って資料や私物を回収することが難しくなる場合があります。

もっとも、夫名義の預金を無断で払い戻したり、財産を処分したりすることは避けるべきです。夫婦の財産の一部を持ち出す必要がある場合でも、必要性や金額によっては争いになるため、事前に弁護士へ相談することをお勧めします。

持ち出した物については、品目、数量、持ち出した日、保管場所を記録し、可能であれば写真も残しておきましょう。

2 夫名義の財産も財産分与の対象になり得ます

財産分与では名義よりも財産の形成過程が重要

財産分与とは、離婚に際し、夫婦が婚姻中に協力して形成・維持した財産を清算する制度です。

財産分与には、夫婦の共有財産を清算する「清算的財産分与」のほか、離婚後の生活を支える「扶養的財産分与」、慰謝料を補完する性質の分与が含まれることがあります。ただし、実務上の中心は清算的財産分与です。

財産分与で重要なのは、通帳や不動産の名義が誰になっているかだけではありません。その財産が、いつ、どのような資金によって取得され、夫婦がどのように協力して維持してきたかが問題となります。

例えば、夫の給与を原資として購入した夫名義の自宅であっても、妻が家事や育児を担い、夫の就労や財産形成を支えていた場合には、原則として財産分与の対象となり得ます。

妻に収入がなかったことや、夫から生活費を受け取っていただけであることを理由に、直ちに妻の寄与が否定されるわけではありません。

分与割合は原則として2分の1

2026年4月1日に施行された改正民法では、財産形成に対する夫婦の寄与の程度が異なることが明らかでない場合、その寄与は相等しいものとされました。したがって、清算的財産分与の割合は、原則として夫婦それぞれ2分の1です。

もっとも、一方の特殊な資格や能力によって極めて高額な財産が形成された場合など、具体的事情によっては2分の1とは異なる割合が問題となることもあります。

婚姻前の財産や相続財産は原則として対象外

財産分与の対象となるのは、原則として婚姻中に夫婦の協力によって形成・維持された財産です。

そのため、次のような財産は「特有財産」として、通常は財産分与の対象から除かれます。

  • 婚姻前から保有していた預貯金や不動産
  • 婚姻中に相続によって取得した財産
  • 親族などから個人的に贈与された財産
  • 婚姻前の財産を原資として取得したことが明確な財産

ただし、婚姻前の預金と婚姻後の収入が同じ口座で長期間混在している場合などは、特有財産の範囲について争いになることがあります。「もともとは夫の財産だった」という説明だけで対象外になるわけではなく、取得時期や原資を裏付ける資料が必要です。

3 別居前に確認しておきたい財産資料

まず財産の所在を示す手掛かりを集める

財産を調査するためには、少なくとも金融機関名、支店名、証券会社名、保険会社名などの手掛かりが必要です。

銀行名すら分からない状態では、弁護士会照会や裁判所の調査嘱託を利用することも難しくなります。夫が家計を管理している場合は、分かる範囲で次の情報を整理しましょう。

  • 給与が振り込まれている銀行と支店
  • 住宅ローンや公共料金の引落口座
  • 自宅や勤務先の近くにある金融機関
  • 郵便物が届いている銀行、証券会社、保険会社
  • スマートフォンやパソコンに表示される金融機関の名称
  • 夫が利用しているクレジットカード
  • 会社経営者であれば、会社名、持株数、役員報酬など

口座番号まで分からなくても、銀行名や支店名が判明しているだけで、その後の調査につながる可能性があります。

預貯金・不動産・保険などの資料を保存する

確認しておきたい主な資料は、次のとおりです。

預貯金

通帳の表紙、支店名・口座番号が記載されたページ、別居時前後の取引履歴を確認します。定期預金、外貨預金、インターネット銀行なども見落とさないようにしましょう。

不自然な高額出金や別口座への送金がある場合は、送金先や使途を確認するため、別居前後だけでなく一定期間の取引履歴が必要になることがあります。

不動産

不動産登記事項証明書、売買契約書、重要事項説明書、固定資産税の納税通知書、住宅ローンの返済予定表、別居時点の残高証明書などを確認します。

不動産の価値は固定資産税評価額だけでは判断できないため、必要に応じて不動産会社の査定や不動産鑑定も検討します。

生命保険

保険証券や契約内容のお知らせを確認し、保険会社、証券番号、契約者、被保険者、受取人を記録します。

財産分与では、保険金額そのものではなく、基準時に解約した場合の解約返戻金相当額が問題となることが一般的です。保険会社から解約返戻金証明書を取得できる場合があります。

株式・投資信託など

証券会社名、支店名、口座番号、保有銘柄、保有数量、別居時点の評価額を確認します。NISA口座、外国株式、投資信託、従業員持株会、暗号資産なども対象となり得ます。

会社経営者の場合は、自社株式や非上場株式の評価が大きな争点になることがあります。会社名義の財産が直ちに夫婦の財産になるわけではありませんが、夫が所有する会社の株式には財産的価値があるため、決算書や確定申告書などの確認が必要です。

退職金やその他の財産

勤務先の退職金規程、退職金見込額の証明書、自動車の車検証、ゴルフ会員権、貸付金、企業年金なども確認します。

退職金は、退職までの期間や支給の確実性などによって財産分与の対象となるか、どのように評価するかが異なります。

収入資料も忘れずに保存する

夫の源泉徴収票、給与明細、課税証明書、確定申告書などは、婚姻費用や養育費を計算するために重要です。

確定申告書には、不動産所得、配当所得、株式の譲渡所得、事業所得などが記載されていることがあり、財産の所在を把握する手掛かりにもなります。

なお、裁判所に資料を提出するときは、マイナンバーが記載された書類をそのまま提出してはいけません。マイナンバーの記載がない書類を取得するか、裁判所の指示に従って適切にマスキングする必要があります。

4 別居日と別居時点の残高を記録する

財産分与では、どの時点に存在した財産を対象とするのかという「基準時」が重要です。

夫婦が別居した後は、通常、共同して財産を形成する関係が失われるため、実務上は別居時が基準時となることが多いといえます。

そのため、別居日を明確にするとともに、可能な限りその時点における次の情報を記録しておきましょう。

  • 預貯金の残高
  • 株式や投資信託の保有数量
  • 保険の解約返戻金額
  • 不動産の内容と住宅ローン残高
  • 自動車その他の財産
  • 借入金などの負債

株式や不動産は、財産の範囲を確定する基準時と、その価値を評価する時点が異なる場合があります。また、別居直前に多額の預金が引き出されている場合は、その出金の使途や財産分与における扱いが問題となります。

したがって、別居時の残高だけでなく、基準時前後の取引履歴も保存しておくことが重要です。

5 夫が財産を開示しない場合の調査方法

弁護士会照会

弁護士が依頼を受けた事件では、弁護士法23条の2に基づき、所属弁護士会を通じて金融機関などに照会を行うことがあります。

金融機関と支店が特定できていれば、夫名義の口座の有無、残高、取引履歴などについて照会を検討できます。

ただし、弁護士会照会をすれば、全国すべての銀行口座を一括して発見できるわけではありません。金融機関によって回答の範囲や対応が異なるため、銀行名や支店名などの手掛かりが重要です。

家庭裁判所の調査嘱託

離婚調停、離婚訴訟、財産分与の調停・審判では、裁判所に対し、金融機関などへの調査嘱託を申し立てることが考えられます。

調査嘱託では、対象となる金融機関や調査事項をできる限り具体的に特定し、その調査が必要な理由を説明する必要があります。申立てをすれば必ず採用される制度ではなく、必要性や対象の特定状況などを踏まえて裁判所が判断します。

情報開示命令

2026年4月1日に施行された改正法により、財産分与に関する調停・審判や離婚訴訟において、裁判所が当事者に対し、財産状況に関する情報の開示を命じる制度が設けられました。

正当な理由なく開示命令に従わなかった場合や虚偽の情報を開示した場合は、10万円以下の過料に処せられる可能性があります。

もっとも、この制度があるからといって、相手方の財産が自動的にすべて判明するわけではありません。財産の存在を疑わせる事情や、調査すべき金融機関などの手掛かりを整理しておくことは、引き続き重要です。

6 資料収集でしてはいけないこと

同居中であっても、どのような方法で資料を取得してもよいわけではありません。

例えば、夫のパスワードを無断で使用してインターネットバンキングや証券口座にログインする行為、夫宛ての未開封郵便物を勝手に持ち出す行為、勤務先や第三者に虚偽の説明をして資料を取得する行為などは、別の法的問題を生じさせる可能性があります。

資料を確認・保存するときは、取得日時、保管されていた場所、資料の出所を記録しておきましょう。原本を持ち出す必要がない場合は、コピーや写真による保存で足りることもあります。

裁判所へ提出した資料は、相手方から閲覧・謄写される可能性があります。住所など相手方に知られたくない情報が含まれている場合は、マスキング、非開示希望の申出、秘匿制度などの利用を検討する必要があります。

7 財産分与を請求する時期と期限

離婚前は離婚調停の中で話し合う

離婚成立前であれば、夫婦関係調整調停、いわゆる離婚調停の中で、離婚、親権、養育費、面会交流、慰謝料などと併せて財産分与を話し合うことができます。

離婚訴訟に進んだ場合は、附帯処分として財産分与を申し立てます。

財産の全体像が分からないまま離婚だけを先に成立させると、資料収集や交渉が難しくなることがあります。離婚を先行させるべきかどうかは、生活状況や安全面、請求期限なども踏まえて慎重に判断する必要があります。

離婚後は財産分与調停・審判を利用する

離婚後に財産分与の話合いがまとまらない場合は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所などに財産分与請求調停を申し立てます。

調停で合意できなければ、原則として審判に移行し、裁判所が財産の内容や夫婦の寄与などを踏まえて判断します。

離婚した日によって請求期限が異なる

財産分与の請求期限は、離婚の時期によって異なります。

  • 2026年4月1日以後に離婚した場合:離婚から5年
  • 2026年3月31日以前に離婚した場合:離婚から2年

この期間を過ぎると、家庭裁判所に財産分与の処分を求めることができなくなるため注意が必要です。裁判所の財産分与請求調停の案内

8 夫が家計を管理していても財産分与を諦める必要はありません

夫が家計を一括して管理し、妻が財産の全体像を知らない場合でも、財産分与を諦める必要はありません。

夫名義の預貯金、不動産、保険、有価証券なども、婚姻中に夫婦の協力によって取得・維持された財産であれば、財産分与の対象となる可能性があります。

離婚を考え始めたときは、次の準備が重要です。

  • 妻と子どもの安全を確認する
  • 別居日を明確にする
  • 夫の収入・財産に関する資料を保存する
  • 銀行名、支店名、証券会社名などの手掛かりを整理する
  • 別居時点の資産と負債を一覧にする
  • 離婚後の請求期限を確認する

手元に十分な資料がない場合でも、弁護士会照会、家庭裁判所の調査嘱託、情報開示命令などを利用できる可能性があります。ただし、どの制度を利用できるかは、把握している情報や手続の段階によって異なります。

P&M法律事務所では、夫が家計を管理しているため財産の内容が分からない方や、財産隠しに不安を感じている方からのご相談にも対応しています。離婚や別居を切り出す前の段階でもご相談いただけます。

財産分与で不利益を受けないためには、早い段階で資料の収集方法や今後の進め方を整理しておくことが大切です。まずはP&M法律事務所へご相談ください。初回相談は無料です。

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この記事の監修者
P&M法律事務所 代表弁護士 林本悠希

P&M法律事務所
代表弁護士 林本 悠希

大阪大学高等司法研究科卒業後、事務所経験を経て独立し、P&M法律事務所を立ち上げる。メディア出演経験あり。

「ご依頼者様の利益を常に考え、最善の解決をご提案します。」

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