離婚前に預金を引き出された場合、財産分与はどうなる?使い込み・預金移動への対応を弁護士が解説

離婚前に預金を引き出された場合、財産分与はどうなる?使い込み・預金移動への対応を弁護士が解説
離婚の話が出た後や別居の直前に、夫婦の一方が銀行口座から多額の預金を引き出していたことが判明するケースがあります。
「離婚する前に預金を全部引き出されたら、財産分与を請求できなくなるのか」
「現金で持っていると言われたが、本当に残っているのか分からない」
「別居前に数百万円が引き出され、何に使ったのか説明してくれない」
このような場合でも、預金を引き出したというだけで、その金額が当然に財産分与の対象から外れるわけではありません。
重要なのは、主に、①財産分与の基準時、②引き出したお金が現在も残っているか、③いつ・いくら引き出したのか、④何に使ったのか、⑤その預金自体が夫婦の共有財産なのかという点です。
特に、離婚を見越して別居直前に多額の預金を引き出し、合理的な使途の説明がされない場合には、既に口座からお金がなくなっていても、引出額を財産分与の計算上考慮できることがあります。
財産分与の対象となる預金とは
婚姻中に夫婦で形成した預金は名義にかかわらず対象になる
財産分与では、原則として、夫婦が婚姻中に協力して形成・維持した財産を清算します。
そのため、預金口座が夫だけの名義になっていたとしても、
「夫名義だから夫のお金」
ということにはなりません。
たとえば、夫が会社員として給与を得て、その給与の一部を夫名義の銀行口座に貯蓄していたとしても、妻が家事や育児を担うなどして婚姻生活を支えていたのであれば、その預金は実質的には夫婦の協力によって形成された財産として、財産分与の対象となります。
反対に、結婚前から持っていた預金や、婚姻中であっても相続・贈与によって個人的に取得した財産については、原則として「特有財産」として財産分与の対象から除外されます。
結婚前の預金と結婚後の預金が混ざっている場合
実務上よく問題になるのが、独身時代から使っている預金口座を結婚後もそのまま給与振込口座として使用している場合です。
たとえば、結婚時に500万円の預金があり、別居時には1,200万円になっていたとしても、単純に1,200万円全額が財産分与の対象になるとは限りません。
婚姻前から存在した500万円について特有財産であることを立証できれば、その部分を除外できる可能性があります。
ただし、長期間にわたって入出金が繰り返されている場合には、婚姻前の預金がそのまま残っているのか、婚姻後の収入と混在しているのかを確認する必要があります。
特有財産であることを主張する場合には、婚姻時の通帳や取引履歴などの客観的資料を確保しておくことが重要です。
財産分与では「いつの預金残高」を見るのか
原則として別居時が基準になる
預金の使い込みを考える上で最も重要なポイントの一つが、財産分与の「基準時」です。
清算的財産分与では、夫婦の協力によって形成された財産を清算するため、一般的には、夫婦の経済的な協力関係が終了した時点を基準として対象財産を確定します。
実務上、離婚前に別居している場合には、原則として別居時が基準時となります。
そのため、
別居時点で夫の預金が1,000万円あった
のであれば、その後、離婚成立までに夫が500万円を使って預金残高が500万円になったとしても、原則として別居時の1,000万円を基礎として財産分与を検討します。
別居後に引き出せば財産分与を減らせるわけではない
たとえば、別居時に夫婦共有財産である預金が1,000万円あり、その後、預金名義人である夫が500万円を使ったとします。
離婚時の口座残高が500万円になっていても、
「今は500万円しかないから、500万円だけを財産分与すればよい」
とは通常なりません。
別居時の1,000万円を財産分与の対象として、仮に夫婦の寄与割合を2分の1とすれば、それぞれ500万円を取得すべきことになります。
そのため、別居後に夫が500万円を費消したのであれば、夫が自分の取り分を先に使ったものと整理し、残る500万円を妻の取得分として考えることができます。
つまり、別居後に預金を引き出したからといって、財産分与の対象額そのものを減らせるわけではありません。
別居前に預金を引き出された場合はどうなる?
引き出した現金が残っていれば財産分与の対象になる
別居前に預金を引き出した場合でも、そのお金が別居時に現金として残っているのであれば、原則として財産分与の対象となります。
たとえば、夫が別居の1週間前に夫名義の口座から500万円を引き出し、自宅の金庫に現金で保管していたとします。
銀行口座の残高だけを見れば500万円減っていますが、夫婦共有財産である預金が現金に姿を変えただけです。
したがって、その500万円は財産分与の対象となります。
別の銀行口座に送金した場合や、証券口座に移して株式等を購入した場合についても、財産が形を変えて残っているのであれば、移転先の財産を調査する必要があります。
既に使われている場合は判断が難しくなる
問題となるのは、別居前に引き出したお金が既に使われ、別居時には存在していない場合です。
原則論としては、財産分与の基準時に存在しない財産まで当然に財産分与の対象になるわけではありません。
たとえば、夫婦の通常の生活費、住宅費、教育費、医療費などとして合理的に支出され、別居時には既に存在していなかった金銭について、すべてを財産分与の対象に戻して計算することは通常ありません。
しかし、ここで重要なのが、「使ったと言えば何でも財産分与から外れる」というわけではないという点です。
多額の使途不明金は財産分与に加算されることがある
別居直前の不自然な引出しは問題になりやすい
たとえば、それまで毎月20万円程度しか出金されていなかった口座から、
- 別居1か月前に300万円
- 別居2週間前に200万円
- 別居3日前に300万円
といった多額の現金が突然引き出されていた場合を考えてみます。
しかも、相手が、
「生活費に使った」
「何に使ったか覚えていない」
などと説明するだけで、具体的な使途を明らかにしない場合には、そのまま800万円が消滅したものとして扱うことが公平とはいえない場合があります。
実務上は、引出額、引出しの時期や頻度、従前の生活状況、使途、裏付け資料の有無などを検討し、合理的な説明がない多額の引出しについて、別居時に存在したものとして財産分与の対象に組み入れることがあります。
具体的に何がチェックされるのか
預金の引出しが問題となった場合には、主に次のような事情を確認します。
①金額が通常の生活費と比較して多額ではないか
②別居や離婚の直前に集中して引き出されていないか
③それまでにはなかった不自然な出金が繰り返されていないか
④何に使ったのか具体的な説明があるか
⑤領収書や振込記録など、使途を裏付ける資料があるか
⑥他の銀行口座や証券口座等に資金を移していないか
単に「大きな引出しがあった」というだけで直ちに相手の使い込みと認定されるわけではありません。
一方で、離婚・別居が現実化した時期に多額の資金移動があり、その理由が合理的に説明されない場合には、重要な争点になる可能性があります。
生活費として使った場合はどうなる?
通常必要な生活費であれば単純な「使い込み」とはならない
別居前の出金であっても、家賃、住宅ローン、食費、光熱費、子どもの学費、医療費など、夫婦の共同生活のために通常必要な支出であれば、一般的には正当な費消として評価されやすくなります。
たとえば、別居前の半年間に預金が120万円減っていたとしても、毎月20万円ずつ家族の生活費として使用されていたのであれば、通常は120万円をそのまま財産分与に加算することにはなりません。
これに対して、別居直前に500万円を現金で引き出し、
「生活費だった」
と説明するだけでは、その金額や従前の生活水準によっては合理的な説明とは認められない可能性があります。
重要なのは、金額だけではなく、その家庭の従前の生活状況との比較です。
婚姻費用との関係も問題になる
別居後に夫婦共有財産である預金を一方が持ち出し、その預金を自分や子どもの生活費として使用している場合には、財産分与とは別に婚姻費用との関係が問題になることがあります。
裁判例には、共有財産としての預金を持ち出し、その金銭を生活費に充てられる状況にあったことなどを考慮して、その一部について婚姻費用の支払がされたものとして扱ったものがあります。
したがって、
「共有預金を使った」
という一つの事実についても、
財産分与ではどう扱うのか
という問題と、
婚姻費用の支払として評価されるのか
という問題を分けて検討する必要があります。
ギャンブルや浪費で使われた場合
別居後にギャンブルや浪費によって預金が減少した場合には、原則として別居時の残高を基準として財産分与を計算するため、使った本人の都合で財産分与の対象額を減少させることはできません。
一方、別居前のギャンブル等による費消については、個別の事情を検討する必要があります。
通常の夫婦生活とは無関係な多額の支出があり、特に離婚や別居が近づいてから財産を意図的に流出させているような事情があれば、財産分与において問題となる可能性があります。
もっとも、ギャンブルに使った金額であれば機械的に全額を加算できる、という単純なルールが存在するわけではありません。
支出時期、金額、夫婦関係、従前の家計管理などを含めて判断する必要があります。
預金を引き出されたときに集めておきたい資料
まず銀行口座の取引履歴を確認する
相手による預金の引出しが疑われる場合には、できるだけ早い段階で預金の動きを確認することが重要です。
特に確認したいのは、
婚姻時前後の残高
別居時の残高
別居前数か月から数年間の取引履歴
多額の出金の日付と金額
振込の場合には振込先
他の金融機関への資金移動
などです。
通帳のコピーがある場合には確保しておきましょう。
インターネットバンキングの場合、過去の取引履歴を確認できる期間に制限があることもあるため、離婚を検討している段階から保存しておくことが有効です。
相手名義の預金でも資料を保存する
夫婦の一方名義の預金も財産分与の対象となり得ます。
そのため、離婚前に相手名義の預金口座の存在や残高を確認できる資料が手元にある場合には、保存しておくことが重要です。
後になって相手から、
「そんな口座はない」
「別居時にはほとんど残っていなかった」
と主張される可能性もあるからです。
もっとも、無断で相手のインターネットバンキングにログインするなど、不適切な方法によって資料を取得することは避ける必要があります。
財産隠しが疑われる場合は早めの対応が重要
預金の使い込みについては、時間が経過するほど取引の追跡が難しくなることがあります。
たとえば、500万円が銀行口座から引き出され、その後さらに別の口座、証券会社、保険商品などに移転している場合には、複数の取引をたどって資金の所在を確認する必要があります。
また、離婚を予定している相手が財産を処分・隠匿する可能性が高い場合には、事案によっては財産保全の方法を検討すべきケースもあります。
特に財産額が大きい離婚では、別居する前から預貯金、不動産、株式、生命保険、退職金、会社関係の財産などを整理しておくことが重要です。
財産分与の請求期限にも注意
2026年4月1日に施行された改正法により、財産分与について家庭裁判所に申立てができる期間は、原則として離婚後5年となっています。
ただし、**2026年3月31日以前に離婚した場合には、従前の離婚後2年という期間が適用されます。**裁判所も同様の経過措置を案内しています。
預金の使い込みが疑われる事件では、銀行取引の調査などにも時間が必要となるため、離婚後に財産分与を検討する場合でも早めに対応することをおすすめします。
まとめ|離婚前に預金を引き出されても諦める必要はありません
離婚前に相手が預金を引き出していた場合でも、口座からお金がなくなったという理由だけで、当然に財産分与の対象から外れるわけではありません。
別居時に存在していた財産については、原則として別居時の残高を基準として財産分与を検討します。そのため、別居後に相手が預金を引き出して使ってしまったとしても、通常、それだけで財産分与額が減少するわけではありません。
また、別居前の引出しについても、現金や他の金融資産として残っていれば財産分与の対象になります。
既に使われている場合には判断が難しくなりますが、別居直前の多額の引出し、繰り返される不自然な出金、具体的な使途を説明できない出金などについては、引出額を財産分与の対象財産に加えて計算できる可能性があります。
したがって、
「相手に預金を全部引き出されてしまったから、もう取り戻せない」
と直ちに諦める必要はありません。
重要なのは、別居時の預金残高、引出しの時期・金額・頻度、使途、資金の移転先などを、銀行の取引履歴その他の客観的資料から丁寧に整理することです。
P&M法律事務所では、離婚・財産分与に関するご相談を取り扱っています。別居前に多額の預金が引き出されている、相手の口座から不自然な出金がある、財産を隠されている可能性があるなど、財産分与についてお悩みの方は、ぜひP&M法律事務所にご相談ください。初回相談は無料です。
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P&M法律事務所
代表弁護士 林本 悠希
大阪大学高等司法研究科卒業後、事務所経験を経て独立し、P&M法律事務所を立ち上げる。メディア出演経験あり。
「ご依頼者様の利益を常に考え、最善の解決をご提案します。」

