夫が会社経営者の場合、会社名義の財産も財産分与の対象になる?

夫が会社経営者の場合、会社名義の財産も財産分与の対象になる?
夫が会社を経営している場合、離婚時の財産分与は、給与所得者の家庭に比べて複雑になりやすい傾向があります。
「会社名義の不動産や預金も、夫婦で半分ずつにできるのか」
「夫は会社に多額の資産があるのに、個人名義ではほとんど財産を持っていない」
「会社名義だから財産分与の対象にならないと言われた」
このような疑問や不安を抱く方も少なくありません。
結論からいうと、会社は夫個人とは別の法人であるため、会社名義の不動産、預貯金、自動車などが当然に財産分与の対象となるわけではありません。
一方で、夫が保有する会社の株式や出資持分は、夫個人の財産です。婚姻中に夫婦の協力によって取得・形成されたものであれば、財産分与の対象となる可能性があります。
また、会社が実質的に夫の個人事業と変わらない場合や、夫婦の財産を意図的に会社名義へ移した場合など、特別な事情があるケースでは、会社名義の財産自体が財産分与の基礎として考慮されることもあります。
本記事では、夫が会社経営者である場合の財産分与について、会社財産と株式の違い、株式の評価方法、確認すべき資料などを解説します。
1 財産分与では「誰の名義か」だけで決まらない
婚姻中に夫婦で形成した財産が対象となる
財産分与とは、離婚に際し、夫婦が婚姻中に協力して取得・維持した財産を清算する制度です。
預貯金や不動産が夫単独の名義であっても、夫が働いて得た収入と妻による家事・育児などの協力によって形成された財産であれば、原則として財産分与の対象となります。
妻が会社の経営に直接関与していなかったとしても、それだけで妻の寄与が否定されるわけではありません。妻が家事や育児を担うことで、夫が会社経営に専念できたという関係があれば、その協力も財産形成への寄与として評価されます。
2026年4月1日に施行された改正民法では、夫婦の寄与の程度が異なることが明らかでない場合、その寄与は相等しいものとされました。そのため、清算的財産分与の割合は、原則として2分の1ずつとなります。
もっとも、一方の特別な資格、能力、事業上の手腕などによって極めて高額な財産が形成されたケースでは、具体的事情によって2分の1とは異なる割合が認められることもあります。
婚姻前の財産や相続財産は原則として対象外
夫が婚姻前から保有していた会社株式や、親族から相続・贈与によって取得した株式は、原則として夫の特有財産であり、財産分与の対象になりません。
ただし、婚姻後に夫婦の共有財産を使って増資した場合や、妻の協力によって会社の価値が大きく増加した場合には、その増加分をどのように扱うかが問題となることがあります。
単に「会社は結婚前から存在していた」というだけで判断できるものではなく、婚姻時の株式価値、別居時の会社の状況、増資の原資、会社が成長した経緯などを確認する必要があります。
2 会社名義の財産は原則として直接の対象にならない
会社と夫個人は別の人格である
株式会社や医療法人などの法人は、法律上、夫個人とは別の人格を持っています。
そのため、次のような会社名義の財産は、原則として会社の所有物です。
- 会社名義の預貯金
- 会社名義の不動産
- 会社名義の自動車
- 会社が保有する株式・投資信託
- 事業用の機械、設備、備品
- 会社の売掛金や貸付金
夫が会社の代表者であり、株式の大部分を保有しているとしても、それだけで会社の財産が夫個人の所有物になるわけではありません。
したがって、妻が財産分与として「会社名義の預金の半分」や「会社名義の不動産の持分」を当然に請求できるわけではありません。会社の財産を直接夫婦で分ければ、会社の債権者、他の株主、従業員など第三者の利益を害する可能性もあります。
会社の財産と夫の財産を区別する必要がある
夫が会社経営者である場合は、少なくとも次の三つを区別しなければなりません。
- 会社が所有する財産
- 夫が所有する会社株式・出資持分
- 夫個人が会社に対して有する貸付金などの権利
例えば、夫が会社に1000万円を貸し付けている場合、会社の預金そのものは会社財産ですが、夫が会社に対して有する1000万円の貸付金返還請求権は夫個人の財産です。この貸付金が婚姻中の収入を原資としている場合には、財産分与の対象となる可能性があります。
反対に、夫が会社から多額の借入れをしている場合には、役員貸付金の実態や返済状況を確認する必要があります。
3 会社株式・出資持分は財産分与の対象になり得る
会社の価値は株式の価値に反映される
会社名義の個々の財産を直接分けられない場合でも、夫が保有する株式や出資持分は夫個人の財産です。
夫が婚姻中に会社を設立し、夫婦の財産や婚姻中の収入によって株式を取得した場合、その株式は財産分与の対象となり得ます。
会社が不動産や多額の預貯金を保有していれば、その資産価値は原則として株式の評価に反映されます。そのため、通常は会社の不動産や預金を一つずつ夫婦で分けるのではなく、夫が保有する株式全体の価値を算定し、それを基礎として財産分与を行います。
例えば、夫が保有する非上場株式の評価額が1億円であり、その全てが夫婦の共有財産と認められる場合には、原則としてその評価額を財産分与の計算に組み入れます。
もっとも、会社の純資産が1億円だからといって、夫の株式価値が必ず1億円になるとは限りません。事業継続の必要性、株式の譲渡制限、収益力、含み損益、税金、少数株式であることなどを考慮した評価が必要です。
株式そのものではなく金銭で清算することが多い
財産分与として、妻が会社株式そのものを取得する方法も理論上は考えられます。
しかし、離婚後も元妻が株主として会社に関与し続けることは、会社経営上の対立を生じさせる可能性があります。譲渡制限株式の場合には、会社の承認が必要になることもあります。
そのため、実務上は、事業を継続する夫が株式を保有し続け、その評価額に応じた代償金を妻に支払う方法が有力です。
ただし、株式の評価額が高額である一方、夫個人に十分な預貯金がない場合には、一括払いが困難になることがあります。その場合は、不動産や他の財産との組合せ、分割払い、担保設定なども含めて清算方法を検討します。
4 会社名義の財産自体が考慮される例外的な場合
会社が実質的に夫の個人事業と変わらない場合
会社という形式を採っていても、実態が夫の個人営業とほとんど変わらず、会社財産と個人財産が明確に区別されていないケースがあります。
例えば、次のような事情がある場合です。
- 夫が会社の全株式を保有している
- 会社に他の実質的な経営関与者がいない
- 会社と夫個人の口座間で頻繁に資金が移動している
- 会社経費と家族の生活費が区別されていない
- 会社名義の自動車や不動産を家族だけで使用している
- 会社の帳簿と実際の財産管理が一致していない
- 夫が会社財産を自由に管理・処分している
過去の裁判例には、株式会社の形式を採っていても、実態が従前の個人営業の延長であり、夫が会社財産の実質的な管理処分権を有していたことなどを踏まえ、営業財産を財産分与の判断に取り込んだものがあります。
もっとも、夫が小規模な会社を経営しているというだけで、直ちに会社財産が分与対象になるわけではありません。会社の実態を具体的な資料に基づいて立証する必要があります。
夫婦が協力して家族会社の財産を形成した場合
夫婦を中心とする同族会社で、妻も経理、接客、営業、労務管理などに継続的に関与していたケースでは、会社財産の形成に対する妻の寄与が問題となります。
裁判例には、妻が家事や子育てを担いながら夫の事業にも協力し、夫婦を中心とする同族会社の資産形成に大きく貢献したとして、会社名義の財産を財産分与の基礎として考慮したものがあります。
ただし、会社に他の株主や共同経営者がいる場合や、会社の資産に第三者の出資・労働による価値が含まれている場合には、会社財産の全てを夫婦の財産と扱うことはできません。
夫婦の寄与によって形成された部分と、それ以外の部分を区別する必要があります。
夫婦共有財産を会社名義に移した場合
本来は夫婦の共有財産であった預貯金や不動産を、財産分与の対象から外す目的で会社へ移転した場合には、名義だけを理由に対象外とすることが相当でないケースがあります。
例えば、別居や離婚の直前に、夫個人の預金を会社口座へ送金した場合や、夫婦の資金で購入した不動産を合理的な理由なく会社名義にした場合です。
このような場合は、資金の出所、移転の時期、会社側の対価の支払い、会計処理、移転の目的などを確認し、実質的に誰の財産であるかを検討します。
会社名義が単なる名義借用にすぎないと認められれば、事実認定として個人財産と判断される可能性があります。また、法人格が形骸化している、又は財産隠しのために法人格が濫用されているといえる場合には、法人格否認の法理が問題となることもあります。
ただし、法人格否認が認められるための要件は厳格です。「夫が会社を自由に動かせる」という事情だけで、簡単に認められるものではありません。
5 医療法人の出資持分を財産分与の対象とした裁判例
大阪高等裁判所平成26年3月13日判決では、医師である夫が婚姻後に設立した医療法人の出資持分が問題となりました。
この事案では、医療法人の財産が、法人化前に形成された診療所の財産に由来し、それを活用して増加したことなどから、夫が保有する出資持分全体が財産分与の対象として評価されました。
もっとも、医療法人の純資産額がそのまま出資持分の評価額とされたわけではありません。夫が当面医療法人で診療を継続する予定であり、将来の事業運営上の変化を正確に予測することが困難であることなどから、純資産評価額の7割相当額が出資持分の価値とされました。
また、分与割合についても、医師である夫の資格、技能及びそれによる高収入が財産形成に寄与したとして、夫6割、妻4割と判断されています。
この裁判例からも、会社や法人の純資産額、株式・持分の評価額、夫婦の分与割合は、それぞれ別の問題として検討する必要があることが分かります。
6 非上場株式はどのように評価するのか
決算書の純資産額だけでは判断できない
上場株式には市場価格がありますが、中小企業の非上場株式には日々の取引価格がありません。そのため、会社の決算書、資産内容、収益力などを基に株式価値を算定します。
代表的な考え方として、次のような方法があります。
- 会社の時価純資産を基礎とする純資産方式
- 将来得られる収益を基礎とする収益方式
- 類似する上場会社の株価などと比較する方式
- 複数の方式を組み合わせる方法
どの評価方法が適切かは、会社の規模、業種、資産構成、収益状況、事業の継続性などによって異なります。
帳簿上の金額を時価に修正する必要がある
決算書に記載された資産額が、現在の価値をそのまま示しているとは限りません。
例えば、不動産は取得時の価格を基礎とした簿価で計上されており、現在の市場価格と大きく異なることがあります。保有株式、ゴルフ会員権、機械設備などにも含み益や含み損が生じている場合があります。
反対に、回収できない売掛金や貸付金が資産として計上されていることもあります。会社が保有する資産と負債を時価に引き直し、簿外債務の有無なども確認しなければ、適正な株式評価はできません。
また、会社から夫に対する貸付金や、夫から会社に対する貸付金が計上されている場合は、その発生原因、返済の有無、実際の資金移動まで確認する必要があります。
7 経営者の夫との離婚で確認すべき資料
会社が関係する財産分与では、次のような資料が重要です。
会社と株式に関する資料
- 商業登記簿
- 定款
- 株主名簿
- 株式の取得時期や取得価格が分かる資料
- 設立時・増資時の払込資料
- 過去数年分の決算書・法人税申告書
- 勘定科目内訳明細書
- 総勘定元帳
- 会社所有不動産の登記事項証明書
- 会社口座の取引履歴
- 株主総会議事録、取締役会議事録
会社と夫個人との取引に関する資料
- 役員報酬や賞与に関する資料
- 配当金の支払資料
- 役員貸付金・役員借入金の明細
- 会社から夫に支払われる賃料
- 夫個人から会社への不動産賃貸資料
- 会社経費で支払われた個人的支出
- 会社と夫個人との間の送金履歴
会社は夫とは別人格であるため、財産分与手続を開始すれば、会社の全帳簿が当然に開示されるわけではありません。
そのため、夫の株式・持分を評価するために会社資料が必要なのか、会社名義の財産自体を実質的な夫婦共有財産として主張するのかを整理した上で、必要な資料の開示を求めることが重要です。
8 株式の基準時と評価時は分けて考える
財産分与では、「どの財産を対象とするかを確定する時点」と「その財産をいくらと評価するかという時点」が異なることがあります。
対象財産の範囲は、原則として夫婦の経済的協力関係が終了した時点を基準とします。別居が先行した場合は、別居時が基準となることが一般的です。
一方、株式や不動産など価格が変動する財産については、審判や判決など、分与時に近い時点の価値が採用されることがあります。
非上場会社の場合、別居後も夫の経営努力によって会社価値が増加したのか、それとも婚姻中に形成された事業基盤によって増加したのかが問題となることもあります。設立時、増資時、別居時、現在の各時点における株式数、資産、負債、収益状況を比較することが重要です。
9 会社の事業を維持しながら清算する方法
財産分与は、個々の財産を全て2分の1ずつ現物で分ける制度ではありません。
夫が事業を継続する場合には、夫が株式や事業関係財産を取得し、妻が預貯金、不動産その他の財産を取得する方法が考えられます。財産の組合せだけでは均衡しない場合は、夫が妻へ代償金を支払います。
代償金が高額となり、一括払いが困難な場合には、分割払いを検討することもあります。ただし、長期の分割払いには、会社の業績悪化や夫の支払不能というリスクがあります。
そのため、支払期限、期限の利益喪失条項、遅延損害金、担保、連帯保証、公正証書の作成などを具体的に検討する必要があります。
会社の存続を優先するあまり妻が適正な分与を受けられなくなることも、反対に、過大な支払条件によって会社経営が破綻することも避けなければなりません。会社の価値と夫個人の支払能力を区別し、実行可能な清算方法を設計することが重要です。
10 会社名義だからといって財産分与を諦める必要はありません
夫の会社名義の財産は、原則として会社の所有物であり、妻が離婚時に直接その半分を取得できるものではありません。
しかし、夫が婚姻中に取得・形成した会社株式や出資持分は、財産分与の対象となり得ます。会社の不動産や預貯金などの価値は、通常、株式・出資持分の評価を通じて財産分与に反映されます。
さらに、次のような事情がある場合には、会社名義の財産自体を財産分与の基礎として考慮できるかを検討する必要があります。
- 会社が実質的に夫の個人事業と変わらない
- 夫婦を中心とした家族経営である
- 会社財産と夫個人の財産が混同している
- 夫婦の共有財産を会社名義にしたことが明確である
- 財産分与を免れる目的で財産が会社へ移転された
- 法人格が形骸化又は濫用されている
経営者との離婚では、「会社名義だから対象外」と簡単に結論づけることはできません。一方で、会社の資産全てを夫個人の財産とみなすことも適切ではありません。
株式・出資持分の取得時期と評価額、会社と個人との資金の流れ、夫婦の事業への関与、会社の経営実態、事業継続の必要性などを資料に基づいて分析する必要があります。
なお、財産分与の請求期限は、2026年4月1日以後に離婚した場合は原則として離婚から5年です。2026年3月31日以前に離婚した場合は、経過措置により原則として離婚から2年となるため、注意してください。
P&M法律事務所では、会社経営者、医師、同族会社の代表者などとの離婚に伴う財産分与についてもご相談をお受けしています。
夫が会社の資料を開示しない場合や、会社名義と個人名義の財産が混在している場合には、早い段階から必要な資料と調査方法を整理することが重要です。会社名義だから財産分与を受けられないと諦める前に、まずはP&M法律事務所へご相談ください。初回相談は無料です。
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P&M法律事務所
代表弁護士 林本 悠希
大阪大学高等司法研究科卒業後、事務所経験を経て独立し、P&M法律事務所を立ち上げる。メディア出演経験あり。
「ご依頼者様の利益を常に考え、最善の解決をご提案します。」

