高収入なのに預金が少ない夫との離婚|財産はどこへ消えた?確認すべき資産と調査方法

高収入なのに預金が少ない夫との離婚|財産はどこへ消えた?確認すべき資産と調査方法
「夫はかなりの収入を得ているはずなのに、預金残高がほとんどありません」
高収入の夫との離婚を考えている方から、このようなご相談を受けることがあります。預金が少なければ、財産分与で受け取れる金額も少なくなってしまうのではないかと、不安になる方もいるでしょう。
しかし、財産分与の対象は、普通預金や定期預金だけではありません。婚姻中の収入が不動産、株式、投資信託、生命保険、会社の株式、自動車などに形を変えている可能性があります。また、別口座への送金、住宅ローンの返済、事業への投入などに使われていることもあります。
したがって、預金残高だけを見て、「分ける財産がない」と判断するのは早計です。高収入なのに預金が少ない場合こそ、婚姻中のお金の流れと、預金以外の資産を丁寧に確認する必要があります。
年収が高くても財産分与の金額が高いとは限らない
財産分与は年収ではなく、形成された財産を分ける制度
財産分与は、夫の年収そのものを分ける制度ではありません。婚姻中に夫婦が協力して取得し、または維持した財産を、離婚時に清算する制度です。
夫の年収が3000万円であっても、婚姻中の生活費や教育費などとして相当額が適切に使われ、財産が残っていなければ、年収だけを根拠に多額の財産分与を求めることは困難です。
一方、預金として残っていなくても、その収入によって不動産や有価証券などが購入されていれば、形を変えた資産が財産分与の対象となる可能性があります。
つまり、重要なのは「夫はいくら稼いでいたか」だけではなく、「婚姻中の収入が何に使われ、別居時にどのような財産として残っていたか」です。
財産の名義が夫でも財産分与の対象になり得る
財産分与の対象は、夫婦共有名義の財産に限られません。
夫名義の預金、不動産、株式、生命保険、自動車などであっても、婚姻中に夫婦の協力によって取得・維持されたものであれば、財産分与の対象となり得ます。
妻が専業主婦で、直接収入を得ていなかった場合も同様です。家事や育児によって家庭を支え、夫が仕事をして財産を形成できる環境を整えていたことも、財産形成への寄与として評価されます。
2026年4月1日に施行された改正民法でも、寄与の程度が異なることが明らかでない場合には、夫婦の寄与は相等しいものとされました。実務上も、清算割合は原則として2分の1と考えられています。
預金残高は「ある一日の数字」にすぎない
財産の範囲を確定する基準時は原則として別居時
財産分与では、どの時点に存在していた財産を対象にするかが重要です。この時点を「基準時」といいます。
実務上は、夫婦の経済的な協力関係が終了した別居時を基準時とすることが一般的です。離婚成立日ではありません。
例えば、別居時には夫名義の預金が2000万円あったものの、離婚時には500万円まで減っていた場合、離婚時の500万円だけを見ればよいとは限りません。別居後の1500万円が何に使われたのかを確認する必要があります。
反対に、別居後に夫が自分の労働によって新たに得た収入は、原則として夫婦の協力によって形成された財産ではないため、財産分与の対象外となる可能性があります。
別居前の引出しも確認する必要がある
別居直前に多額の預金が引き出されていることもあります。
引き出されたお金が婚姻中の生活費、住宅費、教育費、税金などに適切に使われていれば、その金額が当然に財産分与の対象へ戻されるわけではありません。
一方、夫が自分だけの利益のために浪費した、第三者へ不自然に送金した、現金として保管している、別口座へ移したという場合には、引き出された金額を財産分与で考慮できる可能性があります。
重要なのは、「高収入だから、これくらい残っているはずだ」という推測だけではなく、預金の取引履歴や送金先などの客観的資料から使途を確認することです。
高収入の夫との離婚で見落としやすい財産
不動産と住宅ローン
夫名義の自宅、投資用マンション、賃貸物件、土地なども、婚姻中に夫婦の協力によって取得したものであれば、財産分与の対象となり得ます。
不動産については、次の事項を確認します。
- 所在地と登記名義
- 購入時期と購入代金
- 頭金の原資
- 現在の時価
- 住宅ローンの残高
- 婚姻前の預金や相続財産が投入されていないか
財産分与では、一般に不動産の時価から住宅ローン残高を控除した実質的な価値を検討します。ただし、住宅ローンが不動産の時価を上回る、いわゆるオーバーローンの場合には、他の財産との関係も含めた検討が必要です。
固定資産評価額は、必ずしも実際の売却価格と一致しません。財産分与では、不動産会社の査定書や不動産鑑定などにより、時価を確認することが重要です。
株式・投資信託・暗号資産
高収入の方は、余剰資金を銀行預金のまま保有せず、株式、投資信託、債券、外貨、暗号資産などに移していることがあります。
証券口座については、別居時の保有銘柄と数量を確認し、そのうえで適切な時点の価格によって評価します。株式等は価格が変動するため、財産の範囲を確定する時点と、評価額を算定する時点が一致しないことがあります。
また、預金口座から証券会社への定期的な送金があれば、証券口座が存在する可能性を示す手掛かりになります。銀行の取引履歴だけでなく、証券会社からの郵便物、確定申告書、配当金の入金なども確認する必要があります。
暗号資産の場合には、取引所の口座だけでなく、個人のウォレットで保有している可能性もあり、存在や数量の特定が難しいことがあります。早い段階で取引履歴や送金記録を確保することが重要です。
生命保険・学資保険
積立型の生命保険、終身保険、養老保険、学資保険などには、解約時に受け取れる「解約返戻金」があることがあります。
婚姻中に保険料を支払い、解約返戻金が形成されている場合には、保険を実際に解約しなくても、基準時の解約返戻金相当額が財産分与の対象となり得ます。
保険証券だけでは金額が分からないため、保険会社から基準時における解約返戻金の証明書や試算書を取り寄せる必要があります。
掛け捨て型保険には、通常、分与対象となる解約返戻金はありません。また、婚姻前から加入していた保険については、婚姻前に形成された部分と婚姻中に形成された部分を区別することがあります。
退職金や企業年金
夫の年齢、勤務先、勤続期間などによっては、将来支給される退職金も財産分与の対象となる可能性があります。
まだ退職していなくても、退職金が支給される可能性が高く、金額を合理的に算定できる場合には、別居時に自己都合退職したと仮定した退職金額などをもとに、婚姻期間に対応する部分を算定する方法があります。
すでに退職金を受け取っている場合には、その入金先や使途を確認します。退職金を定期預金、有価証券、保険、不動産などに移していれば、その資産が財産分与の対象となり得ます。
ただし、退職金の全額が対象になるわけではありません。婚姻前の勤務期間や別居後の勤務期間に対応する部分は、原則として除外して考えます。
会社経営者の場合は法人と個人を区別する
会社名義の財産が当然に分与対象となるわけではない
夫が会社を経営している場合、会社名義の預金、不動産、自動車、設備などが多くても、それらが当然に夫婦間の財産分与の対象となるわけではありません。
株式会社や医療法人などの法人は、夫個人とは別の法的主体です。会社名義の財産は、原則として会社の財産であり、夫個人の財産ではありません。
そのため、「夫の会社に預金が1億円あるから、その半分を請求できる」という関係にはなりません。
婚姻中に形成された会社株式は対象となり得る
他方、夫が所有する会社の株式や出資持分は、夫個人の財産です。
その株式や出資持分を婚姻中に取得し、夫婦の協力によってその価値が形成・維持された場合には、株式等の価値が財産分与の対象となる可能性があります。
非上場会社の株式には市場価格がないため、会社の決算書、保有不動産、借入金、収益力などをもとに評価する必要があります。決算書上の純資産額をそのまま株式の時価とできるとは限りません。土地や有価証券が簿価で計上されている場合には、時価への修正が必要となることもあります。
また、夫が会社へ多額のお金を貸し付けている場合の役員貸付金や、会社が夫に対して返還を求められる役員借入金の有無も確認が必要です。
法人と個人の財産が混在している場合
小規模な同族会社では、会社と経営者個人のお金が混在している場合があります。会社名義の財産でも、実質的には夫婦の共有財産を会社名義へ移しただけというケースも考えられます。
もっとも、会社名義であるというだけで、その財産を直接分与対象にできるわけではありません。会社の設立経緯、株主構成、財産の原資、会社と個人の経理処理などを具体的に検討する必要があります。
婚姻前の財産や相続財産は原則として対象外
夫が婚姻前から持っていた預金や不動産、婚姻中に相続・贈与によって取得した財産は、原則として夫の「特有財産」であり、財産分与の対象にはなりません。
ただし、夫が特有財産であると主張するだけで当然に対象外となるわけではありません。婚姻前の通帳、相続関係書類、贈与契約書などにより、取得時期と原資を明らかにする必要があります。
婚姻前の預金と婚姻後の収入が同じ口座で長期間混在し、入出金が繰り返されている場合には、現在残っている預金のうち、どの部分が婚姻前の財産であるか判別できないこともあります。
また、相続した不動産そのものは特有財産でも、夫婦の収入によって多額の改修費やローンを負担し、価値を維持・増加させた場合には、その寄与をどのように評価するかが問題となることがあります。
財産を確認するために集めたい資料
高収入なのに預金が少ない場合には、まず、次のような資料を可能な範囲で確認します。
- 預貯金通帳と取引履歴
- 源泉徴収票、課税証明書、確定申告書
- 不動産の登記事項証明書
- 住宅ローンの返済予定表・残高証明書
- 証券会社や暗号資産交換業者の取引資料
- 保険証券と解約返戻金の資料
- 退職金規程、退職金見込額証明書
- 会社の決算書、法人税申告書、株主名簿
- クレジットカードの利用明細
- 高額商品の購入記録や売買契約書
- 配当金、賃料その他の収入に関する資料
別居を伝えた後では、資料へのアクセスが難しくなることがあります。そのため、離婚や別居を切り出す前に、無理のない範囲で財産に関する情報を整理しておくことが重要です。
ただし、相手のパスワードを不正に取得して口座へアクセスするなど、違法となり得る方法は避けなければなりません。
夫が財産を開示しない場合の調査方法
裁判所を通じた調査嘱託等
離婚調停や財産分与の審判、人事訴訟では、必要に応じて、裁判所から金融機関、勤務先、保険会社などに照会を行う調査嘱託や、文書の送付を求める文書送付嘱託などを申し立てることが考えられます。
ただし、裁判所が夫名義の財産を網羅的に探し出してくれる制度ではありません。通常は、金融機関名、支店名、口座の存在をうかがわせる事情など、一定の手掛かりが必要です。
そのため、給与の振込履歴、住宅ローンの引落し、証券会社への送金、保険料の支払先など、日常のお金の流れから財産の所在を特定することが重要になります。
財産状況についての情報開示命令
2026年4月1日に施行された改正法により、財産分与に関する審判事件などにおいて、家庭裁判所が必要と認める場合には、当事者に対して財産状況に関する情報の開示を命じる制度が設けられました。
正当な理由なく情報を開示しない場合や、虚偽の情報を開示した場合には、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。離婚訴訟の中で財産分与を求める場合にも、同様の制度があります。
もっとも、この制度によって、隠された財産が自動的にすべて発見されるわけではありません。相手の収入、過去の取引履歴、生活状況などと開示された財産が整合しているかを検討する必要があります。
不開示の場合には財産額が推認されることもある
口座の存在が明らかであるにもかかわらず、夫が取引履歴や残高を開示しない場合には、過去の残高、給与の入金額、固定的な支出などから、基準時の残高を推定することが検討されます。
ただし、「高収入だから財産を隠しているはずだ」というだけで、多額の財産が認定されるわけではありません。口座の存在、過去の残高、資金移動など、推定を支える客観的な資料が重要です。
財産分与は離婚から5年以内に請求する
当事者間で話合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に財産分与請求調停または審判を申し立てることができます。
2026年4月1日以降に離婚した場合、家庭裁判所への財産分与の申立ては、離婚した日の翌日から5年以内に行う必要があります。
一方、2026年4月1日より前に離婚した場合には、従前どおり原則として離婚から2年以内です。改正によって、過去の離婚についても一律に5年へ延長されたわけではない点に注意が必要です。
期間が残っているからといって、調査を先延ばしにすることはおすすめできません。時間が経過するほど、通帳や取引履歴が廃棄され、資産が売却・移転されるなどして、財産の把握が難しくなるおそれがあります。
高収入なのに預金が少ない場合は、お金の流れを確認することが重要
夫の年収が高いのに預金が少ない場合、直ちに「財産を隠している」と断定することはできません。生活費、教育費、税金、住宅ローンなどの負担が大きく、実際に財産があまり形成されていないこともあります。
しかし、婚姻中の収入が、不動産、株式、投資信託、保険、退職金、会社株式などへ形を変えている可能性もあります。また、別口座への送金や、別居前後の不自然な引出しが行われていることもあります。
財産分与で重要なのは、現在の預金残高だけではなく、原則として別居時にどのような財産が存在し、それがどのような原資によって形成されたかです。
特に、会社経営者、医師、複数の不動産や証券口座を持つ方との離婚では、財産の種類や名義が複雑になりやすく、早い段階で資料を整理する必要があります。
P&M法律事務所では、高収入の配偶者との離婚、財産分与、会社株式、不動産、保険、退職金、財産隠しなどのご相談をお受けしています。
「収入の割に預金が少ない」「どこに財産があるのか分からない」「会社名義の財産ばかりで、夫名義の財産が見当たらない」といった場合も、資料とお金の流れを確認し、調査方法や請求の見通しをご説明します。
離婚や別居を切り出す前に、まずはP&M法律事務所へご相談ください。初回相談は無料です。
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P&M法律事務所
代表弁護士 林本 悠希
大阪大学高等司法研究科卒業後、事務所経験を経て独立し、P&M法律事務所を立ち上げる。メディア出演経験あり。
「ご依頼者様の利益を常に考え、最善の解決をご提案します。」

