会社経営者の夫との離婚で財産分与を有利に進めるには?自社株・会社財産・財産隠しへの対応を弁護士が解説

会社経営者の夫との離婚で財産分与を有利に進めるには?自社株・会社財産・財産隠しへの対応を弁護士が解説
夫が会社経営者である場合、離婚時の財産分与は、会社員同士の離婚と比べて複雑になりやすい傾向があります。
「夫名義の預金はそれほど多くないから、財産分与も少ないのではないか」
「会社名義になっている財産は、離婚では一切関係ないと言われた」
「会社の株式に価値があるはずなのに、夫から『株には値段が付かない』と言われている」
このようなご相談は珍しくありません。
会社経営者の場合、個人の預貯金や不動産だけを確認しても、その人の実際の財産状況を十分に把握できないことがあります。夫が保有する自社株、会社への貸付金、役員報酬、会社名義の不動産、会社と個人との資金移動などを含めて確認する必要があります。
もっとも、会社は経営者個人とは別の法人です。そのため、「会社に1億円の財産があるから、その半分の5000万円を妻がもらえる」という単純な話でもありません。
経営者との離婚では、夫婦の財産と会社の財産を区別しながら、実質的に婚姻中に形成された財産がどこに存在しているのかを丁寧に確認することが重要です。
会社経営者との離婚では「夫名義の財産」だけを見てはいけない
財産分与とは、基本的には、夫婦が婚姻中に協力して形成・維持した財産を離婚の際に清算する制度です。
そのため、財産の名義だけで対象になるかどうかが決まるわけではありません。
例えば、夫が会社経営によって得た収入を原資として婚姻中に購入した自宅や、夫名義で積み立てた預貯金・株式などについては、夫単独名義であっても財産分与の対象となる可能性があります。
妻が専業主婦でも原則として財産形成への寄与があります
「夫が会社を経営して稼いだお金なのだから、妻にはほとんど権利がない」と考える方もいますが、必ずしもそうではありません。
財産分与では、収入を直接得たことだけが「寄与」ではありません。
妻が家事や育児を担当することで夫が会社経営に専念できたのであれば、そのような貢献も夫婦の財産形成への寄与として考慮されます。
2026年4月1日に施行された改正民法では、婚姻中の財産の取得・維持について夫婦の寄与の程度が異なることが明らかでない場合には、その寄与は相等しいものとすることが明文化されています。
つまり、現在の制度でも、財産分与は原則として「2分の1ずつ」という考え方が基本になります。
まずは財産を徹底的に洗い出すことが重要
経営者との離婚で財産分与を検討するときは、いきなり「いくら請求できるか」を計算するよりも、最初に対象となる可能性のある財産を一覧化することが重要です。
個人名義の財産を確認する
例えば、次のような財産を確認します。
- 預貯金
- 現金
- 土地・建物などの不動産
- 自動車
- 生命保険・学資保険などの解約返戻金
- 上場株式・投資信託
- 非上場会社の株式
- 会社に対する貸付金
- 退職金
- その他の金融資産
預貯金であれば通帳や取引履歴、不動産であれば登記事項証明書や査定資料、保険であれば解約返戻金証明書などを確認していきます。
経営者の場合には、個人名義の財産だけでなく、会社との間にどのようなお金の流れがあるのかも重要になります。
婚姻前の財産や相続財産は原則として対象外
一方、すべての財産を半分にするわけではありません。
夫が結婚する前から所有していた預貯金や不動産、婚姻中に相続や贈与によって取得した財産などは、原則として「特有財産」とされ、財産分与の対象外となります。
もっとも、婚姻前の財産と婚姻後に形成された財産が同じ口座で管理されている場合など、どこまでが特有財産なのかが争いになることもあります。
そのため、財産の「現在の名義」だけではなく、いつ取得したのか、何を原資として取得したのかを確認することが重要です。
別居している場合は「基準時」に注意する
財産分与では、どの時点に存在した財産を対象とするのかも重要な問題です。
実務上、夫婦が別居した後に離婚する場合には、原則として、夫婦の経済的協力関係が終了した別居時を基準として財産の範囲を確定することが多くあります。
例えば、別居時に夫名義の預金が3000万円あったとしても、その後、離婚までの間に1000万円まで減っているケースがあります。
この場合に、「現在1000万円しかないから1000万円だけを対象にする」と単純に処理できるとは限りません。
逆に、別居後に夫が自らの事業活動によって新たに形成した財産については、原則として財産分与の対象から外れる可能性があります。
そのため、別居を検討している段階から、預金残高や証券口座、自社株、不動産などについて資料を確保しておくことが重要です。
会社名義の財産は財産分与の対象になる?
会社経営者との離婚でもっとも誤解されやすいのが、会社名義の財産です。
原則として会社の財産と夫個人の財産は別物
株式会社などの法人は、経営者個人とは法律上別の存在です。
そのため、夫が会社の代表取締役であり、株式を100%所有していたとしても、会社名義の預金や不動産そのものが当然に夫個人の財産になるわけではありません。
例えば、
「会社名義の銀行口座に5000万円あるから、その半分を妻に分ける」
という処理を当然に行うことはできません。
ここは非常に重要なポイントです。
ただし「自社株の価値」には会社の財産が反映される
会社財産そのものが財産分与の対象にならないとしても、そこで話が終わるわけではありません。
夫が会社の株式を所有しており、その株式が婚姻中に形成された財産であれば、夫が保有する株式そのものが財産分与の対象となる可能性があります。
そして、自社株の価値を評価する際には、
- 会社の預貯金
- 会社所有の不動産
- 売掛金
- 有価証券
- 会社の借入金
- その他の資産・負債
などが重要になります。
例えば、夫個人には1000万円しか財産がなかったとしても、夫が実質的に100%所有する会社に多額の純資産があれば、夫が保有する株式に相当な価値が認められることがあります。
したがって、「会社名義だから財産分与とは無関係」という説明をそのまま受け入れるべきではありません。
非上場の自社株はどう評価する?
上場株式であれば市場価格を確認できますが、中小企業の自社株は市場で売買されていないため、簡単には値段が分かりません。
そのため、経営者との離婚では「自社株をいくらと評価するのか」が大きな争点になることがあります。
決算書の純資産だけで決まるとは限らない
自社株の評価では、会社の貸借対照表や決算書が重要な資料になります。
もっとも、「決算書上の純資産が1億円だから株式価値も必ず1億円」というわけではありません。
会社が所有する不動産の簿価と実際の時価が大きく異なっていたり、回収が困難な売掛金が計上されていたり、将来の事業継続に必要な資産が含まれていたりすることがあります。
反対に、帳簿上は価値が低く表示されていても、会社が値上がりした不動産を所有しているなど、実際の資産価値が高い場合もあります。
会社の規模や業種、資産構成、収益力などによっては、税理士、公認会計士その他の専門家による株価評価が必要となることもあります。
会社と夫個人のお金が混ざっていないか確認する
中小企業や同族会社では、会社と経営者個人のお金の境界が曖昧になっていることがあります。
例えば、
- 会社から夫個人に多額の貸付金がある
- 夫が会社に多額のお金を貸している
- 私生活の支出を会社が負担している
- 会社口座と個人口座との間で頻繁に資金移動がある
- 自宅や自動車を会社名義にしている
- 妻が実際には受け取っていない給与が帳簿上計上されている
といったケースです。
このような場合には、単に決算書を見るだけではなく、総勘定元帳、法人税申告書、会社の預金口座、役員貸付金・役員借入金なども確認する必要があります。
会社財産そのものを当然に夫婦共有財産として扱えるわけではありませんが、会社と個人との資産関係を調査することによって、それまで見えていなかった夫個人の財産が判明することがあります。
妻が会社を手伝っていた場合は必ず整理しておく
経営者との離婚では、妻が夫の会社を手伝っているケースも多くあります。
例えば、
- 経理をしていた
- 電話対応をしていた
- 来客対応をしていた
- 営業を手伝っていた
- 顧客管理をしていた
- 給与計算をしていた
- 事務所の掃除や備品管理をしていた
といった事情です。
このような会社への協力に加えて、家事・育児を担当して夫が経営に専念できる環境を整えていたことも含め、財産形成への寄与として整理しておくことが大切です。
経営者だから当然に夫の取り分が増えるわけではない
夫側から、
「会社をここまで大きくしたのは自分だから、財産の8割は自分のものだ」
などと主張されることがあります。
しかし、会社経営者であることや高収入であることだけで、当然に寄与割合が2分の1から変更されるわけではありません。
一方で、極めて特殊な資格・技能・能力などが財産形成に大きく影響した事案では、裁判例上、2分の1とは異なる寄与割合が認められたケースもあります。
結局のところ、肩書や年収だけではなく、その夫婦がどのように財産を形成してきたのかを具体的に検討する必要があります。
夫が財産を開示してくれない場合はどうする?
経営者との離婚で大きな問題となるのが、
「夫が財産を教えてくれない」
というケースです。
経営者は会社の決算資料や銀行口座を管理していることが多いため、他方配偶者からすると財産の全体像が見えにくいことがあります。
まずは、手元にある資料から、
- 銀行口座
- 証券会社
- 所有不動産
- 会社名
- 関連会社
- 生命保険
- 自社株
- 会社に対する貸付金
- 役員報酬
- 配当
などを特定していきます。
裁判所による情報開示命令という制度もあります
2026年4月1日施行の改正法では、財産分与に関する裁判手続において、裁判所が当事者に対し、財産状況に関する情報を開示するよう命じる制度が設けられました。
正当な理由なく情報を開示しなかった場合や、虚偽の情報を開示した場合には、過料の対象となることがあります。
もっとも、この制度があるからといって、裁判所が自動的にすべての財産を探し出してくれるわけではありません。
どのような財産が存在する可能性があるのか、その手掛かりをできるだけ集めておくことは依然として重要です。
財産分与では住宅ローンや会社関係の債務にも注意する
財産分与では資産だけではなく、債務も確認する必要があります。
例えば、自宅の時価が6000万円でも、住宅ローンが4000万円残っていれば、実質的な価値は大きく異なります。
会社経営者の場合には、
- 住宅ローン
- 不動産投資ローン
- 会社への借入れ
- 会社からの借入れ
- 事業資金の個人保証
などが存在することもあります。
ただし、会社の借入金について夫が個人保証をしているからといって、保証債務の全額を当然に夫婦財産から差し引くというわけでもありません。
債務の性質や発生経緯、現実に支払義務が生じる可能性などを個別に検討する必要があります。
自宅や自社株を「半分ずつ」にする必要はない
財産分与は、一つ一つの財産を物理的に半分に分ける制度ではありません。
例えば、
「妻が自宅を取得する」
「夫が自社株を取得する」
「夫が妻に代償金を支払う」
という形で、全体として公平になるように調整することも可能です。
会社経営を継続する夫にとって、自社株を妻に渡すことが現実的でないケースも多いため、夫が株式を保有し続け、その価値に応じた金銭を妻に支払う方法が検討されることがあります。
だからこそ、自社株を適正に評価することが重要になります。
財産分与の請求期限にも注意
2026年4月1日以後に離婚した場合、家庭裁判所に財産分与を請求できる期間は、原則として離婚から5年です。
これに対し、2026年3月31日以前に離婚した場合には、改正前のルールが適用され、原則として離婚から2年となります。
「離婚してから財産について考えればよい」と放置すると、請求できる期間を過ぎてしまうおそれがあります。
特に、経営者との離婚では財産調査や自社株評価に時間がかかることもあるため、早めに準備を始めることをおすすめします。
経営者との離婚では「離婚する前」の準備が重要です
経営者との離婚における財産分与では、次の点が特に重要です。
- 夫婦双方の財産を漏れなく確認する
- 別居時の預貯金や株式などの資料を確保する
- 夫が所有する自社株を確認する
- 会社と夫個人との資金移動を確認する
- 会社の決算書や法人税申告書を確認する
- 不動産や非上場株式を適切に評価する
- 妻の家事・育児・会社への協力を整理する
- 住宅ローンやその他の債務を確認する
- 財産分与の請求期限を確認する
特に会社経営者の場合、離婚を切り出した後に財産関係の資料へアクセスできなくなったり、会社や個人の資金関係が分かりにくくなったりすることがあります。
そのため、離婚を決断した後だけでなく、「離婚を考え始めた段階」で一度弁護士に相談し、どの資料を確保しておくべきか確認することにも大きな意味があります。
会社経営者との離婚・財産分与はP&M法律事務所にご相談ください
会社経営者との離婚では、一般的な預貯金や不動産だけでなく、自社株、会社への貸付金、役員報酬、会社所有資産、会社と個人との資金移動などを含めて財産関係を整理する必要があります。
「夫から会社の財産は離婚とは関係ないと言われた」
「自社株の価値が分からない」
「夫が財産を開示してくれない」
「会社名義の不動産や預金が多い」
「離婚前に何の資料を集めておけばよいか知りたい」
といった場合には、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
P&M法律事務所では、会社経営者との離婚、財産分与、自社株や不動産を含む財産問題についてご相談をお受けしています。
初回相談は無料です。
財産の全体像がまだ分からない段階でも構いません。お手元にある資料を確認しながら、どの財産を調査すべきか、どのような資料を集めるべきか、財産分与をどのように進めるべきかを一緒に整理いたします。
会社経営者である配偶者との離婚や財産分与でお悩みの方は、P&M法律事務所までお気軽にご相談ください。
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P&M法律事務所
代表弁護士 林本 悠希
大阪大学高等司法研究科卒業後、事務所経験を経て独立し、P&M法律事務所を立ち上げる。メディア出演経験あり。
「ご依頼者様の利益を常に考え、最善の解決をご提案します。」

