高所得者との離婚で注意すべきこと|婚姻費用・養育費・財産分与・財産調査を弁護士がわかりやすく解説

高所得者との離婚で注意すべきこと|婚姻費用・養育費・財産分与・財産調査を弁護士がわかりやすく解説
配偶者が会社経営者、医師、歯科医師、投資家などで高い収入を得ている場合、離婚に伴うお金の問題は、一般的な事案より複雑になりやすい傾向があります。収入が裁判所の算定表の上限を超えることがあるほか、給与以外にも役員報酬、配当、不動産所得などがあり、財産も複数の口座、株式、法人、自社株、不動産、保険などに分散していることがあるためです。
もっとも、『相手が高所得者なら、婚姻費用も養育費も際限なく高くなる』『会社名義の財産もすべて半分にできる』というわけではありません。婚姻費用、養育費、財産分与は、それぞれ目的も判断方法も異なります。適切な解決のためには、制度ごとの違いを理解したうえで、収入・支出・財産の実態を客観的な資料から明らかにすることが重要です。
1 高所得者との離婚で最初に整理すべき4つの問題
高所得者との離婚では、まず次の4点を分けて検討する必要があります。
- 別居中の生活費に当たる「婚姻費用」をいくらとするか
- 離婚後の子どもの生活費に当たる「養育費」をいくらとするか
- 婚姻中に形成・維持した財産を「財産分与」でどう清算するか
- 相手の収入や財産が十分に開示されない場合、どのように調査するか
これらは相互に関係しますが、法的には別の問題です。たとえば、婚姻費用の計算で配当金を収入として考慮したからといって、その配当の元となる株式が当然に財産分与の対象になるとは限りません。株式が婚姻前から保有していた特有財産であっても、そこから得た配当が夫婦の生活費に充てられていた場合には、婚姻費用の算定上、収入として考慮されることがあります。
2 高所得者の婚姻費用は算定表だけでは決まらないことがある
婚姻費用とは
婚姻費用とは、夫婦や未成熟子が通常の社会生活を維持するために必要な生活費です。別居していても、法律上の夫婦である間は、収入や資産などに応じて生活費を分担する義務があります(民法760条)。一般には、家庭裁判所が公表している標準算定方式・算定表を参考に金額を検討します。
算定表の年収上限を超える場合
現在公表されている算定表では、義務者の年収欄は、給与所得者について2,000万円、自営業者について1,567万円までです。相手の収入がこの上限を超える場合、上限の数字を機械的に当てはめればよいとは限りません。反対に、年収に比例させて単純に金額を増やせばよいわけでもありません。
裁判実務では、収入が上限をどの程度超えるか、収入の内容、税金・社会保険料の実額、職業上必要な経費、住居費や教育費、同居中の生活水準、別居後の実際の支出、貯蓄に回っていた割合などを踏まえ、個別に算定方法が検討されます。具体的には、次のような考え方が用いられることがあります。
- 算定表の上限額を一つの目安とする
- 通常より低い基礎収入割合を用いる
- 公租公課、職業費、特別経費に加え、貯蓄に回っていた部分を考慮する
- 同居中・別居後の生活費を資料から把握し、相当な生活費を実額で認定する
裁判例から分かること
東京高裁平成28年9月14日決定は、総収入が約4,000万円の事案で、税金・社会保険料等の実額に加え、貯蓄分も考慮して基礎収入を算定した例として知られています。また、東京高裁平成29年12月15日決定は、年収が1億5,000万円を超える事案について、標準算定方式の単純な応用が難しいとして、同居中と別居後の生活水準・支出状況、二つの家計が生じることによる支出の重複などを考慮し、婚姻費用を月額75万円としました。
重要なのは、高所得者の婚姻費用について全事件に共通する一つの計算式があるわけではないという点です。源泉徴収票だけでなく、確定申告書、配当、不動産所得、役員報酬、税・社会保険料、家計収支などを丁寧に整理する必要があります。なお、婚姻費用は生活費であり、婚姻中の贅沢な支出がすべてそのまま保障されるわけではありません。
3 離婚後の養育費は婚姻費用と分けて考える
養育費は子どものための費用
養育費は、離婚後、主として子どもを監護していない親が、子どもの生活・教育などのために負担する費用です。配偶者自身の生活費を含む婚姻費用とは対象が異なります。そのため、高所得者の養育費についても、婚姻費用と同じ方法で考えるとは限りません。
算定表の上限額は重要な目安だが、絶対的な上限とは限らない
子どもが1人の算定表では、義務者が給与所得者で年収2,000万円、権利者の収入が最も低い欄の場合、目安となる最高額の帯は、子どもが0~14歳で月額24万~26万円、15歳以上で月額28万~30万円です。高所得者の事案では、子どもの生活費が親の収入に比例して無制限に増えるものではないとの観点から、算定表の上限付近を一つの目安とする考え方があります。
ただし、これをすべての事件に共通する絶対的な上限と断定するのは適切ではありません。子どもの人数、年齢、私立学校や大学の学費、医学部進学、海外留学、疾病・障害による費用、進学についての父母の合意、婚姻中の教育方針などによっては、算定表とは別に教育費等の分担が問題となります。高額な学費が当然に全額加算されるわけでもないため、進学への同意や従前の教育環境を示す資料が重要です。
法定養育費は通常の養育費の標準額ではない
2026年4月1日以後に、養育費の取決めをしないまま離婚した場合、主として子どもを監護する親は、取決めが成立するまでの暫定的・補充的な制度として、子ども1人につき月額2万円の法定養育費を請求できます。この金額は、高所得者を含む個別事案の適正な養育費額を示すものではありません。実際の収入や子どもの事情を踏まえ、協議や家庭裁判所の手続で適切な養育費を定めることが大切です。
4 財産分与は名義ではなく、形成の実態で判断する
財産分与の対象になる財産
財産分与の中心は、婚姻中に夫婦の協力によって取得・維持された財産の清算です。夫名義か妻名義かだけで決まるものではありません。一方が仕事で収入を得て、他方が家事・育児を担っていた場合にも、その協力によって形成された財産は、実質的な夫婦の共同財産となり得ます。
対象になり得るものには、預貯金、現金、不動産、株式・投資信託、保険の解約返戻金、自動車、会員権、退職金、事業用財産、自社株などがあります。会社経営者の場合には、法人と個人は別人格であるため、会社名義の預金や不動産を当然に夫婦の財産として分けることはできません。しかし、経営者個人が保有する自社株の価値、会社への貸付金、未払役員報酬などが財産分与の対象となる可能性があります。
対象外となる特有財産
婚姻前から保有していた財産や、婚姻中であっても相続・贈与によって取得した財産は、原則として特有財産であり、清算の対象外です。ただし、婚姻前の預金と婚姻後の収入が同じ口座で混在している場合や、相続した不動産について夫婦の資金で多額のローン返済・改修をした場合などは、範囲や寄与をめぐって争いになることがあります。特有財産を主張する側は、婚姻前の通帳、相続関係資料、資金移動の記録などにより、その由来を説明できるようにしておく必要があります。
基準時は原則として別居時
清算対象となる財産を確定する基準時は、夫婦の経済的協力関係が終了した時点、通常は別居時とするのが実務の主流です。預貯金は別居時の残高、株式は別居時の銘柄と数量、保険は別居時の解約返戻金額を確認するのが基本です。もっとも、別居直前に多額の出金がある場合や、形式的には別居していても家計が一体のままであった場合など、事情に応じて詳しい検討が必要です。財産の評価時点も、財産の種類や処分方法により基準時と異なることがあります。
5 会社経営者・資産家の財産をどう調べるか
調査対象は預金口座だけではない
高所得者や会社経営者の財産調査では、給与明細と一つの通帳だけを見ても全体像を把握できないことがあります。証券口座、暗号資産、不動産、生命保険、法人保険、自社株、非上場株式、貸付金、ゴルフ会員権、海外資産なども検討対象になります。会社の決算書、法人税申告書、勘定科目内訳明細書、株主名簿などから、個人と会社との資金移動や株式価値を確認する必要がある場合もあります。
まずは手元の資料と任意開示
財産調査では、まず手元にある通帳、郵便物、証券会社や保険会社からの通知、確定申告書、固定資産税の通知、クレジットカード明細などを整理します。そのうえで、相手に対し、対象財産を特定して任意開示を求めるのが通常です。別居後に相手のIDやパスワードを無断で使用して口座へアクセスするなど、違法となり得る方法で証拠を集めることは避けなければなりません。
弁護士会照会・調査嘱託
任意開示が得られない場合、事案に応じて弁護士会照会や裁判所の調査嘱託を検討します。ただし、『どこかに口座があるはず』というだけで全国の金融機関を網羅的に調査できる制度ではありません。金融機関名・支店名・名義人などを可能な限り特定し、財産が存在すると考える具体的根拠と調査の必要性を示すことが重要です。照会先の運用等により、回答が得られない場合もあります。
また、家事事件手続や離婚訴訟では、一定の場合に、裁判所が当事者へ収入・資産に関する情報の開示を命じる制度があります。正当な理由なく開示しない場合や虚偽の情報を開示した場合には、過料の対象となり得ます。もっとも、制度があるから自動的にすべての財産が判明するわけではありません。疑わしい資金移動や既知の財産を示し、対象を具体化する作業が重要です。
6 財産分与の割合は高所得者だから変わるのか
財産分与の割合は、原則として2分の1ずつとされることが多く、相手が高所得者であるという理由だけで割合が当然に変わるわけではありません。専業主婦・専業主夫であっても、家事・育児による協力が財産形成への寄与として評価されます。
もっとも、極めて特殊な才能や能力によって多額の財産が形成された事案、婚姻前の資産が増加した事案、夫婦の寄与が明らかに同等ではない事案などでは、分与割合や対象範囲が争われることがあります。ただし、単に収入差が大きい、会社経営者である、医師であるというだけで2分の1ルールが修正されるわけではなく、財産形成に至った具体的経緯の主張立証が必要です。
扶養的要素・慰謝料とは区別して考える
財産分与には清算的要素のほか、離婚後の生活を補う扶養的要素や、場合によっては慰謝料的要素が含まれることがあります。しかし、実務では清算的財産分与が中心です。離婚後の生活保障や不貞・暴力等に対する慰謝料は、共同財産を半分に分ける問題と区別して整理した方が、交渉や裁判で主張が明確になります。婚姻中の生活水準が高かったからといって、離婚後も同じ生活水準が当然に保障されるわけではありません。
7 年金分割と財産分与の請求期間にも注意
年金分割
財産分与とは別に、婚姻期間中の厚生年金の標準報酬記録を分割する年金分割があります。将来受け取る年金そのものを現在の財産として半分にする制度ではありません。手続や対象期間が異なるため、財産分与と並行して確認する必要があります。
財産分与の請求期間
2026年4月1日以後に離婚した場合、家庭裁判所に財産分与を求めることができる期間は、原則として離婚後5年です。2026年3月31日以前に離婚した場合は、原則として従前の2年が適用されます。期間を過ぎると家庭裁判所に財産分与を求めることができなくなるため、『落ち着いてから考えよう』と放置するのは危険です。資料が散逸したり、財産が移動したりする前に準備を始めることが重要です。
8 相談前に準備しておきたい資料
高所得者との離婚では、次の資料があると、見通しを具体的に検討しやすくなります。すべてそろっていなくても相談は可能です。まずは手元にある資料を、取得時期や基準日が分かる状態で保管してください。
- 収入資料:源泉徴収票、確定申告書、課税証明書、給与明細、役員報酬、配当・不動産所得の資料
- 支出資料:税金、社会保険料、住宅費、教育費、医療費、クレジットカード明細、家計簿
- 預貯金:別居時前後の通帳、残高証明書、取引履歴
- 投資資産:証券口座の取引残高報告書、保有銘柄・数量が分かる資料、暗号資産の記録
- 保険・不動産:保険証券、解約返戻金証明書、登記事項証明書、査定書、ローン残高資料
- 会社関係:決算書、法人税申告書、勘定科目内訳明細書、株主名簿、自社株評価に関する資料
- 子ども関係:在学証明、授業料・塾・留学等の資料、進学方針についてのやり取り
資料を集める際は、相手のプライバシーやアクセス権限にも注意が必要です。適法な収集方法か迷う場合には、行動する前に弁護士へ相談することをおすすめします。
9 高所得者との離婚は早い段階で見通しを立てることが重要
高所得者との離婚では、収入が多いことそのものよりも、収入源と資産構成が複雑であることが問題になります。婚姻費用は算定表を出発点としながら生活実態等を個別に検討し、養育費は子どもの具体的な生活・教育状況を確認します。財産分与では、名義ではなく婚姻中の形成・維持への夫婦の協力を基準に、原則として別居時の財産を客観的資料で確定します。
別居の時期や別居前後の資金移動は、婚姻費用と財産分与の双方に影響する可能性があります。離婚届を提出してからではなく、別居や離婚を具体的に考え始めた段階で、どの資料を確保し、どの請求をどの順序で進めるかを検討することが大切です。
P&M法律事務所へご相談ください|初回相談は無料です
P&M法律事務所では、高所得者・会社経営者・医師などとの離婚に伴う婚姻費用、養育費、財産分与、財産調査のご相談をお受けしています。収入や財産の全体像が分からない場合でも、現在お持ちの資料から、確認すべきポイントと今後の進め方を一緒に整理します。
高所得者との離婚は、早い段階での資料確保と法的な見通しの整理が結果に大きく影響することがあります。お一人で悩まず、まずはP&M法律事務所へご相談ください。初回相談は無料です。
※本記事は2026年8月時点の法令・公表資料を前提とした一般的な解説です。具体的な結論は個別事情により異なります。
関連記事
-
法律コラム
高所得者との離婚で注意すべきこと|婚姻費用・養育費・財産分与・財産調査を弁護士がわかりやすく解説
-
法律コラム


収入が低いと主張する経営者との離婚|婚姻費用・財産分与で確認すべきポイント
-
法律コラム


複数の不動産を有する相手との離婚
-
法律コラム


会社経営者との離婚で財産分与はどうなる?会社の株式・財産・役員・個人保証の注意点を弁護士が解説
-
法律コラム


富裕層の離婚における財産分与とは? 2分の1ルールだけでは決まらない理由を弁護士が解説
-
法律コラム


医師と離婚する場合の財産分与|医療法人・出資持分・寄与割合の注意点を弁護士が解説
-
法律コラム


弁護士は見た!モラハラをする人の特徴5選 典型例・慰謝料になるケースまで徹底解説
-
法律コラム


離婚後の住宅ローンはどうなる?トラブルを回避するための方法をご紹介
-
法律コラム


離婚時の親権はどうなる?親権者の決め方や注意点を離婚に強い弁護士が解説
-
法律コラム


離婚時に定める養育費とは?相場から請求方法の流れまで分かりやすく解説
-
法律コラム


離婚調停とは?申立ての流れや費用・気を付けるポイントまで弁護士が解説
-
法律コラム


婚姻費用を請求されたら?支払い義務と決定後の減額交渉のポイント


P&M法律事務所
代表弁護士 林本 悠希
大阪大学高等司法研究科卒業後、事務所経験を経て独立し、P&M法律事務所を立ち上げる。メディア出演経験あり。
「ご依頼者様の利益を常に考え、最善の解決をご提案します。」

